研究課題/領域番号 |
26400138
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
松本 敏隆 静岡大学, 理学部, 教授 (20229561)
|
研究分担者 |
小林 良和 中央大学, 理工学部, 教授 (80092691)
渡邉 紘 サレジオ工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (30609912)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 適切性 / 準線形方程式 / リプシッツ発展作用素 |
研究実績の概要 |
(1)抽象準線形発展方程式の研究 非局所項をもつ非線形初期・境界値問題であるサイズ構造をもつ個体群モデルを考察した。この問題を抽象準線形初期値問題として書き換えた際、準線形作用素の定義域が稠密でなくさらに一定でないため、抽象理論に関する先行研究を適用出来ない。本研究では、Kato理論に現れる同型作用素族に対する条件および、射影作用素を導入することでこれらの困難を克服した。ここで新たに導入した条件は、準線形作用素の定義域が稠密な場合は自動的に満たされるものである。この抽象理論をサイズ構造モデルに応用することで、連続的微分可能な解の一意存在を示した。 (2)強退化放物型方程式の可解性の研究 分担者の渡邉は、非線形移流項と非線形拡散項を含む強退化放物型偏微分方程式の1次元初期値問題を考察した。本研究では移流項が空間変数に不連続に依存し、拡散項は空間変数に滑らかに依存している場合を考察し、エントロピー三重組を用いてエントロピー解を定式化し、解の一意存在をH-測度を用いた弱収束法と二重変数法を用いて証明した。また、結晶粒界現象を記述するフェーズ・フィールモデルに関する多次元初期値境界値問題も考察した。本研究では、時間依存する重み付き全変動汎関数のΓ-収束を証明した。さらに、解の時間大域的挙動に関して、温度を十分大きく(小さく)取ることにより、結晶が融解(凝固)し、結晶方位が定まる(定まらない)ことを示した。 (3)Mutational equationの適切性の研究 分担者の小林は、Aubin やLorenzにより始められた距離空間上の変異的方程式に対してΦ-準消散性に相当する条件を新たに提出し、その条件のもとで初期値問題の時間局所解の一意存在を示した.この結果は、従来の抽象準線形発展方程式論の一般化に当たり、Katoによる抽象準線形発展方程式の解の一意存在定理を導くことができる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抽象準線形発展方程式の先行研究では扱うことの出来なかった、準線形作用素の定義域が稠密でなくさらに一定でない場合にKato理論を拡張することに成功し、連続的微分可能な解の一意存在を証明した。ここで新たに導入した条件は、作用素の定義域が稠密な場合には自明な条件であり自然な拡張である。時間にも依存する準線形問題に対しても、時間依存度がリプシッツの場合は本結果に帰着出来る。この研究は準線形初期・境界値問題を意識したものであり、抽象的な結果の応用として、非局所項をもつ非線形初期・境界値問題であるサイズ構造をもつ個体群モデルをL^1 空間で考察し、連続的微分可能な解の一意存在を示した。遅れを持つサイズ構造モデルへの応用に関しても検討中である。上述の結果は、回帰的Banach空間における非線形初期・境界値問題には適用出来ないため、回帰的Banach空間へ拡張する研究を引き続き進めている。 退化放物型方程式に対する研究では、係数が空間変数に連続的あるいは不連続的に依存する初期値問題に対するエントロピー三つ組みとエントロピー解を導入し、解の一意存在を示した。さらに、かなり複雑な非線形初期値・境界値問題である等温条件の下での結晶粒界モデルの全変動汎関数の収束および解の漸近挙動に関する結果を得た。 距離空間におけるmutational equationは、Banach空間における抽象発展方程式のある種の一般化に当たる。その適切性の研究は、従来の抽象理論の統合およびさらなる一般化に繋がる可能性があり、リプシッツ発展作用素の生成理論の研究にとっても重要なものである。 以上の結果は、本研究計画で目指している時間依存する項を含む偏微分方程式の適切性の研究とそのためのツールとしてのリプシッツ発展作用素の生成理論の開発の基礎となるものであり、研究全体としてもおおむね順調に進展していると判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
現在おおむね順調に計画が進んでいるため、今後も互いの所属機関を訪問して研究分担者、連携研究者と緊密に協力して研究を進めてゆく。前年度からの継続課題として、非線形境界条件を持つ準線型分散型方程式、並びに波動方程式の適切性の解明を目指して、回帰的Banach空間への抽象理論の拡張の研究を進めると共に、これまでの研究成果を踏まえてリプシッツ発展作用素の生成理論の開発と関連付けて行う。また、時間依存係数を持つ退化放物型方程式や、複雑な準線形方程式である結晶粒界モデルの適切性の研究も引き続き進めていく。さらに、研究集会等へ参加して最新の研究に関する情報収集や成果発表を行うと共に、他大学から関連する分野の専門家を招いてセミナー等で専門的知識の提供を受けることも計画している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者が年度途中で所属機関を移動したため、同じ機関に所属することになった連携研究者との研究打合せ旅費が不要になったり、研究代表者、研究分担者共に研究打合せや研究集会への参加が都合が付かなくなって取り止めたため次年度使用金が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
所属機関の移動に伴って移管出来なかった書籍などの研究に必要な備品や消耗品を前年度に引き続き揃えるために繰越金を主に用いたいと考えている。それ以外は、計画通りに所属機関を訪問して研究分担者と研究打ち合わせを行ったり、研究集会等へ参加して最新の研究に関する情報収集や成果発表のための旅費に用いる。また、他大学から関連する分野の専門家を招いてセミナーを開催し、専門的知識の提供を受けるための費用に用いる計画である。
|