研究実績の概要 |
1. 制約条件を持つ抽象準線形発展方程式の研究 非線形制約条件付き抽象準線形初期値問題の解の一意存在を,可積分関数空間などの非回帰的空間で示すことは前年度までの研究である程度満足が行く結果が得られたため,今年度は2乗可積分関数空間などの回帰的空間の場合へ拡張することについて検討した.制約条件付き問題を初期値問題として書き換えた際,対応する準線形作用素のレゾルベントに安定性条件を仮定すると,回帰的空間の場合は必然的に準線形作用素の定義域が稠密になってしまい,前年度までの結果は適用できない.このため,安定性条件そのものの見直しが必要となる.一例としてサイズ構造モデルの場合に安定性条件の代替物を求めた.今後も他の方程式の場合の検討を行い,出来るだけ一般的な条件を求め,回帰的空間への生成理論の拡張を計画している. 2. 強退化放物型方程式の可解性の研究 分担者の渡邉は,凝固効果を組み入れた結晶粒界現象を記述するWarren-Kobayashi-Lobkovsky-Carterモデルと,非線形関数を用いて潜熱の効果を組み込んだ熱方程式との連立系に対する初期値境界値問題を考察した.本研究では,モデルに含まれる二重井戸型関数の取り方を一般化すると共に,熱方程式の解法と時間離散化法とを用いて近似解を構成し,ガンマ収束を用いて近似解の収束を証明した.また,正定数を用いて潜熱の効果を組み込んだ場合に,エネルギー消散性を持つ解の存在,および解の時刻無限大における解挙動が定常問題の解で特徴づけられることを示した. 3. 変異方程式の適切性の研究 分担者の小林は,距離空間上の消散条件を満たす変異方程式に対する初期値問題の時間局所適切性の研究を引き続き行い,従来の抽象発展方程式の理論のさらなる一般化を進めている.結果を纏めた論文はIsrael J. Math. に受理された.
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