研究課題/領域番号 |
26400146
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
服部 哲弥 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (10180902)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 確率論 / 数理科学 / 確率過程論 / 大数の法則 / 流体力学極限 |
研究実績の概要 |
本研究は,確率順位付け模型の流体力学極限とロングテールの分析という,確率過程論に軸足を置きつつ統計学ないしは経済学に及びうるテーマを中心としている.確率順位付け模型と呼ぶ多自由度確率過程(粒子系)の無限粒子スケール極限(流体力学極限)の数学的証明を主たる具体的な目標としていた. 本年度は2つの異なる側面の証明に成功した.一つは,一般的な流体力学極限の研究で言う局所平衡のメタファーである流れに従う確率順位付け模型の発見と,大数の強法則の証明の成功である.証明は,増加独立確率過程の大数の強法則(完全収束)の証明に基づく.後者はバナッハ空間値独立確率変数の大数の強法則などの研究につながる可能性を期待する.もう一つは,流れに従う確率順位付け模型と本来の確率順位付け模型が同じ極限に収束することの証明である.この証明は,Gronwall不等式の多変数への一般的な拡張の成功に基づく.前年度に完成していた極限確率過程(直前の到着時刻に強度が依存する点過程)の分析を加えて,強度が非有界で位置依存性を持つ確率順位付け模型の流体力学極限を解決した. 結合経験分布の収束についてノルム収束位相で証明した過去の研究成果に比べて弱収束位相で証明した結果の自然さと拡張性の他に,劣マルチンゲール性に依存した過去の研究成果に比べて,独立確率過程の大数の強法則と直前の到着時刻に強度が依存する点過程および多変数Gronwall不等式など,根本から構築した成果であり,数学で言うところの初等的証明と呼ばれる(繊細な証明の積み重ねを要する)成果と考える.昨年度の状況報告には,「数学的な蓄積を基礎から地道に行う必要があり,忍耐がここ数年の進捗のための最大の方策である」と記していたことを見ると,期待以上の成果である.成果はプレプリントとして整理したが,掲載してくれる学術誌を探すことはこれからの長い道のりである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画以上に進展している. 確率順位付け模型の流体力学極限の数学的研究のテーマで承認いただいた科研費の2年目として,初年度までのていねいな理論的整備の準備を土台にして,概要のとおり,位置に依存する非有界な強度を持つ確率順位付け模型の流体力学極限の証明に成功した.すなわち,前年度に達成した極限確率過程の分析に,本年度は,流れに従う確率順位付け模型と名付けた独立確率過程の大数の強法則の成立と,同模型と本来の目標であった確率順位付け模型の極限が一致することの証明という全く異なる側面を1年間で解決し,5年以上にわたる問題を解決したことを意味する.
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今後の研究の推進方策 |
確率順位付け模型は先頭に跳ぶ規則という単純で旧知な原理に基づくが,多自由度確率過程(粒子系)の流体力学極限の厳密な証明という観点での取り組みが本研究課題代表者の周辺に限られるためか,論文の掲載(採択)に時間がかかっている.本研究課題最初の2年で完成した3本の主要論文の数学分野の査読付き学術誌への掲載のための取り組みに長い研究時間を割く覚悟が必要である.その後は,期待以上の進捗で生まれた時間から論文掲載を含む研究の認知に要する時間を差し引いて余裕があればそれを生かして,流れに従う確率順位付け模型の研究の過程で集めたバナッハ空間値独立確率変数の大数の強法則についての知見と研究で新たに得た経験に基づいて,先行研究の整理と拡張の可能性の検討を行うことと,確率順位付け模型を離れて広く数理科学的な題材を求めるという,より大きな研究目的に従って,大昔に研究したガスケット上の確率過程の研究の再整理に立ち戻りたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末近くの筑波大学での数学会への参加の旅費で本年度予算を使い切る当初計画であった.都内を経由する鉄道は遅延が常態化している一方,学会の講演に遅れるのは参加の意義がなくなるので宿泊を想定して予算を計上していたが,規定の距離に十余キロ足りないため宿泊の旅費が出ないこととなったため,繰り越しが生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は研究計画当初に想定していなかったプリンタの修理のために前倒し支払い請求を行った.繰り越し分は,収支上はこの前倒し支払い分の一部を残した形に結果的になるので,本課題採択時の使用計画と前倒し支払い請求時の使用計画の中間的な計画を採ることになる.
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