本研究は,確率順位付け模型の流体力学極限とロングテールの分析という,確率過程論に軸足を置きつつ統計学ないしは経済学に及びうるテーマを中心としている.確率順位付け模型と呼ぶ多自由度確率過程(粒子系)の無限粒子スケール極限(流体力学極限)の数学的証明を主たる具体的目標としてきた.本年度は前々年度の主定理証明成功を受けた前年度からの主論文作成改訂の地味な作業の継続が中心であった.違う方向性の性質を組み合わせて主結果を得るので,応用性が増すように一般性のある複数の論文を出版することが前年度の方針であったところ,論文のうち1本は前年度に学術誌Funkcialaj Ekvaciojから掲載決定の連絡を受け,本年度付の出版となった.中心となる論文はさらに出版に苦労したが,掲載決定の連絡を頂いたところである.但し校正等の手続を含めて実際の出版は来年度以降の研究に引き継ぐことになる. 本研究は良く言えば高度に特色があって世界的に類似の進展を目指す研究のない,他の追随を許さない独創的研究と自負する.逆に言えば,世界に基礎研究に対する余裕が小さい時代には,選択や集中から漏れる側かもしれない.そのような研究を完成度を高めて後世に残すことも時代に巡り合わせた研究者の役割であると考える.もう1本の論文は改訂を重ねつつ,他の論文とともに自分のウェブページに置いたプレプリントを逐次更新し,また,ウェブページに置いた確率順位付け模型についての一般的な解説に最新の研究成果の概説を和英両文で追加するなど,掲載に前向きな学術誌を見出す間も成果開示は進めている.この3本目の論文は関数値独立確率変数列の2重に一様な大数の完全法則と名付けた強い収束定理である.関連して,大数の完全法則が一般の線形空間値で成り立つかという問題を構想したので,これを新年度の研究計画の1つとしたい.
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