研究課題/領域番号 |
26400148
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
南 就将 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (10183964)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | ランダム作用素 / スペクトル統計 / 感染症モデリング |
研究実績の概要 |
(1)1次元のシュレーディンガー作用素で、ホワイトノイズに空間的に減衰する因子をかけたものをポテンシャルとするものを考察した。ホワイトノイズの代わりに連続な見本関数をもつある種の確率過程としたモデルはすでにKotani, Ushiroyaにより調べられている(Commun. Math. Phys. 115, 247-266 (1988))が、ランダムポテンシャルの部分をより理想的なホワイトノイズとすることで具体的な解析を行うことを目指した。このモデルについて2015年度中に明らかになったのは次の2点である:(a)ランダム・ポテンシャルは超関数的な特異性をもつが、作用素は2乗可積分な関数からなるヒルベルト空間における対称作用素として実現され、さらに減衰因子が2乗可積分ならば確率1で自己共役になる。(b)減衰因子が2乗可積分のとき、作用素のスペクトルの正の部分は絶対連続成分のみから成る。 (2)本研究課題の、感染症疫学への応用の可能性を探るために、2014年度に引き続き、風疹の流行現象を数理モデルに基づいて考察した。現在日本の成人男女間には風疹に対する抗体保有率に顕著な差があるが、これは1977年から1994年にかけて女子中学生のみにワクチン接種が行われていたことによる。そこで、仮にこの政策が長期間続けられとした場合の理論的な帰結をモデルに基づいて考察し、次の結論を得た:(i)ワクチン接種率を上げると、すべての年代の男子および接種年齢未満の女子の集団において抗体保有率が減少する。(ii)ワクチン接種年齢以上の殆どすべての年代の女子の集団においては、接種率をゼロから上げると抗体保有率は増加する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
ランダム作用素の固有値分布に関する極限定理の統一的な定式化のためには、一般化されたSturm-Liouville作用素に対するスペクトル理論を、ヤコビ行列およびホワイトノイズ様の超関数をポテンシャルとするシュレーディンガー作用素の双方を包含する形で整備する必要があり、2015年度のかなりの部分を費やして取り組んだが、まだ完了していない。そのため、他に予定していた研究項目のいくつかには着手できなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)2015年度に引き続き、一般化Sturm-Liouville作用素に対するスペクトル理論をWeyl, Stone, Titchmarsh, Kodaira等による古典理論、およびTeschl等による最近の研究を参照しつつ整備する。 (2)2015年度に手がけた、減衰因子を持つホワイトノイズをポテンシャル項とするシュレーディンガー作用素の研究を継続する。特にスペクトルの負の部分の性質を見極め、また減衰因子が2乗可積分でない場合をも扱う。 (3)「研究実績」欄に述べた風疹流行の数学的解析においては、証明を厳密にしきれなかった部分がある。また日本人の死亡率や風疹の潜伏期間の分布などにやや非現実的な仮定をしていた。これらを見直して、理論の有効性を検討する。
|