研究実績の概要 |
本研究でテーマとしたShepp 空間のもつ準距離線形構造の概念は,Shepp 空間に留まらず広く数列空間や関数空間上に一般化できる可能性が見えてきた.これを見据えて,最終年度に当たる本研究においては,「線形構造を持つ準距離空間論」の構築に向けた基礎研究の充実に取り組んだ. 準距離構造をもつ線形空間の構成については,非加法的単調集合関数(ファジィ測度と呼ばれる)による Lp 空間を初めて導入し,それらが準距離構造を持つ線形空間の豊富な実例を与えることを見出した.実際,Choquet積分,菅野積分,Shilkret積分,Lehrer積分,等による Lp 空間は準距離空間であることを見出した. L∞ 空間は任意の非加法的単調集合関数についてノルム空間である.L0 空間についてはその構造はまだ不明な点が多い.Lp 空間の完備性については,非加法的単調集合関数μの作る非加法的測度空間が完備,μが劣加法的かつ下から連続であれば完備であることを得た.さらに Lp 空間の双対 Lp* を導入して位相的性質を調べた. 非加法的単調集合関数 μ の作る Lp 空間の中で,菅野積分によるものは極めて特異的であり,すべての 0 < p, q < ∞ に対して Lp = Lq が成り立つ等,その構造は興味深い.菅野積分による関数空間 L1(μ:Su) の線形位相構造は,Shepp 空間の線形位相構造と同様の手法で解明できた.即ち,L1(μ:Su) はμ(Ω)=∞ の場合は位相線形空間ではないが,L1(μ:Su) に含まれる最大の位相線形空間の特徴付けおよび線形位相を与える平行移動不変な準距離を見出した.これらの結果は一般の線形構造を持つ準距離空間 X において, X に含まれる最大の位相線形空間とその平行移動不変準距離の構成問題への発展が期待できる.
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