研究課題/領域番号 |
26400158
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
大塚 岳 群馬大学, 大学院理工学府, 講師 (00396847)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 粘性解 / 平均曲率流方程式 / 定常解 / 安定性 |
研究実績の概要 |
駆動力つき平均曲率流方程式の等高面方程式において、不連続関数による定常解の存在とその安定性を証明した。 1994年の儀我-山内の研究により、曲面の第二基本形式の放物型方程式による界面の運動において、定常状態となるものはすべて不安定であることが知られている。これを等高面方程式の観点から見ると、その定常状態の界面を表す等高面方程式の定常解が連続関数の範囲で存在しない、すなわち通常の意味で定常状態を与える解が存在しないと予想される。そこで本研究では定数の駆動力を持つ平均曲率流方程式を考え、これの定常状態にある界面を、等高面方程式の定常解の観点から研究した。このとき、定常状態の界面の内部で1、外部で0となる特性関数が粘性解の意味で等高面方程式の定常解となることを証明した。本研究での重要な点は、滑らかな境界を持つ開集合(境界つきn次元可微分多様体)の特性関数に対し等高面集合の平均曲率を、等高面法の定義から特に関数が不連続となる点において、粘性解の弱微分を用いて算出したことにある。 また、本研究ではこの不連続関数による定常解の安定性についても研究した。駆動力の定数がゼロでない場合では、定常状態にあるコンパクトな界面を等高面法で表す連続関数の初期値を与えると、それがいかに特性関数による定常解に近くても、等高面方程式の非定常問題の解は定常解から離れる、という不安定性を証明した。他方で駆動力がゼロの場合では、砂時計型の領域において境界で界面が直交する境界条件と遠方で定数関数となる条件を課したとき、すべての解が領域のもっとも細い部分で形成される定常状態の界面を表す不連続な定常解に収束する、という安定性を証明した。またこれらの成果の帰結として、それぞれの問題の等高面方程式において、考察している定常状態を与える連続な定常解が存在しないことを証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
等高面方程式において、不連続関数による解の構成では一定の成果を得た。とくに不連続点における粘性解の意味での微分から境界面の平均曲率などを算出する手法は、界面の運動を内部集合とその特性関数から定式化する集合論的手法の研究を進展させ、今後の課題であるステップ列の集中化による解の不連続化と、その後の界面の挙動を調べる手法の研究への準備になると考えている。また不連続関数で構成した定常解の安定性の研究を通じて、解の挙動を詳細に評価する手法を得ることが出来た。これまでの研究では大域的挙動ではあるが、挙動の評価法自体は有限時間内での不連続化に対する研究手法の準備になると考えている。 不純物や結晶構成分子の濃度場を含む連立方程式系でのステップ列の集中拡散に関する研究では、数学としての成果は残念ながら得られていない。他方で、ステップ毎に異なる異方的曲率流方程式で運動するスパイラルステップや、中心点も動くスパイラルステップの運動では、成果として発表するには至らないものの数値計算実験が進展している。 以上の点から、本研究は概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
不純物や表面吸着分子の濃度分布を含む、結晶表面上のステップ列の運動に関する連立方程式系、および異方的運動を表す異方的平均曲率流方程式の等高面方程式など、解が不連続化を引き起こすような、ステップ列のバンチング現象を含む方程式の研究を推進する。異方的平均曲率流方程式による運動では、ステップ毎に異なる異方性を示す運動の等高面方程式の研究の他、運動の定常状態が多角形曲線や多面体となるクリスタライン曲率流の研究もある。クリスタライン曲率流方程式の研究は本来偏微分方程式によるアプローチが困難なため、常微分方程式系による運動の定式化と研究がしばしば行われている。等高面法による数値計算実験では特異的な項を除去する近似法を施すため、その近似法の妥当性を示すためにも、常微分方程式系の研究と、これとの対比は重要である。 そこで今後の研究としては、反応拡散方程式によるステップ列のバンチングの研究と同時に、クリスタライン曲率流方程式などの異方的曲率流方程式の研究にも推進したいと考えている。反応拡散方程式については解の評価法や線形化法による安定性解析、漸近展開などによりステップ列が集中化した後の巨大なステップの挙動を調べる研究を進展させたい。 異方的曲率流方程式ではクリスタライン曲率流方程式による曲線の運動について、常微分方程式系による定式化と基礎理論の研究と、等高面法を用いた曲線運動の定式化法の、両側面から研究を進めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度中に、平成27年度に国際研究集会が集中して開催されることが判明した。そこで研究成果発表や本研究に関連する国内外の研究者らとの意見交換にかかる出張の予定を慎重に判断し、平成27年度開催の国際研究集会への参加に向けて本年度の予算使用判断を慎重に行った。
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次年度使用額の使用計画 |
前述の国際研究集会等への参加費と出張旅費、本研究に関連する研究を行う国内外の研究者らと意見交換するための出張旅費、または論文発表時の別刷り印刷費等に使用する。
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