研究課題/領域番号 |
26400158
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
大塚 岳 群馬大学, 大学院理工学府, 講師 (00396847)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | クリスタライン曲率流方程式 / 等高線法 / 結晶成長 |
研究実績の概要 |
クリスタライン曲率流方程式にしたがう多角形型スパイラルステップの運動を、常微分方程式系による数理モデルと変分的アプローチの双方から研究した。 常微分方程式系による数理モデルの研究では、中心に附される多角形ステップの辺が十分な長さに達したときに新しいステップを生成するとして、中心点が動かずにスパイラルステップが成長する数理モデルを確立した。これは、スパイラルステップの等高線法において中心を動かないとすることに対応する多角形ステップの生成則である。今後の研究において等高線法やその他の数理モデルによる多角形型スパイラルステップの運動を研究するとき、数値計算の結果や数理モデル自体の妥当性を検討する上での基準になると考えている。他方、本研究の数学的な進展としては、スパイラルステップが成長するときに自己交差するか否かの問題において、スパイラルステップの中心点がすべての辺から見て進行方向の後ろ側にある場合に自己交差が生じない、という一つの原理を見出したことが挙げられる。 他方、クリスタライン曲率流方程式の偏微分方程式によるアプローチとして、等高線法と常微分方程式系の数理モデルの数値計算実験による比較研究の他、変分アプローチに基づく数値計算スキームの研究を行った。この研究の背景として、等高線法によるクリスタライン曲率流方程式の数値計算では方程式の特異性を正則なもので近似するため、曲線の形状が多角形より少し丸みを帯びる問題がある。他方で常微分方程式系による数理モデルは多角形曲線の運動として現象を記述する一方、滑らかな曲線を初期値に選べない他、中心が複数ある問題に用いることが難しい。そこで方程式の特異性を除去しない変分アプローチが有効であると考え、研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究内容としてはクリスタライン曲率流方程式の研究に集中したが、その分研究を大きく進展させ、成果を得ることができた。とくに、常微分方程式系と等高線法によるスパイラルステップの挙動について、数値計算実験の結果を比較する方法を構築し、その結果を比較検討し始めている。さらにはクリスタライン曲率流によるスパイラルステップの挙動をより厳密に表しうる、変分的アプローチによる数値計算スキームの研究を始めるなど、次年度へ繋がる新しい研究を開始している。 他方バンチングに関する研究では残念ながら進展がなかった。この点については、これまでの研究を整理してまとめ、問題点を精査して解決していく必要がある。他方で、スパイラルステップの部分的なバンチングにより形成される、スケールの異なる大きなスパイラルステップまたは閉曲線の数値計算例など、数値計算実験では少々の進展がある。これらの成果についても整理して、その数学的または数値解析的問題点を精査する必要がある。 以上の理由から、研究はいくつか至らぬ点があるものの、概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
クリスタライン曲率流方程式にしたがう多角形型スパイラルステップの運動について、等高線法と変分アプローチに基づく数値計算スキームの双方から研究を進めていく。とくに等高線法ではバンチング現象を視野に入れて、三次元等高面法による定式化法をスパイラルステップへ適用する研究を行う。また、これまでの研究に引き続き反応拡散方程式によるステップ列の挙動の研究も行う。 スパイラルステップに対する、クリスタライン曲率流の等高線方程式の研究では、まずその可解性が問題となる。数値計算実験ではしばしばクリスタライン曲率流の特異性を正則化した近似方程式を離散化するので、まずはこの近似方程式による解の近似から考察していく。他方変分アプローチによる数値計算スキームの研究について、従来法では界面からの距離関数を用いるため、これをスパイラルステップに適用することは難しい。この点を解決する方法として、距離関数の代替になるものの考察、またはこの手法を被覆空間に拡張する研究を行いたいと考えている。 スパイラルステップのバンチングに関する研究では、ステップの形状そのものを三次元等高面法で記述する方法による定式化を行い、その数学解析または数値計算実験を研究する。このアイデアの先行研究から、三次元等高面法による定式化の結果、もしくはその数値計算に用いる方程式は、4階微分の特異拡散を含む偏微分方程式となることが予想される。そこでこの4階微分による特異拡散方程式の数学解析を視野にいれて研究を進める。 反応拡散方程式によるステップ列の研究では、バンチングを起こす簡易なモデルの数学解析から始め、その挙動と界面の発展方程式との関係を考察したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度中に得た平成28年度に開催される国際研究集会の情報やそれへの招待などを受けた。そこで平成27年度中の研究発表および意見交換に関する出張を慎重に判断し、平成28年度に開催される国際研究集会への参加に向けて本年度の予算使用判断を慎重に行った。
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次年度使用額の使用計画 |
前述の研究集会への参加費および出張旅費等に使用する。
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