本研究課題は、微分方程式の係数項や非線形項を、微分方程式の解のデータから定める逆問題の解決を図り、逆問題解析において達成が難解な係数項や非線形項の存在定理の確立を目指すものである。最終年度に当たる平成28年度には、精力的に研究並びに研究成果発表を行い、以下の実績を得た。 (1)非線形微分方程式の解の爆発時刻と初期値の対応から非線形項を定める逆問題について、宇佐美広介と共同研究を行い、前年度までに得られた成果を俯瞰し、与えられた対応を実現する非線形項の大域存在定理を一般的なものとして完成し、研究発表の欄に記載のJournalof Differential Equationsに発表した。この研究の今後の発展への寄与をめざし、この問題に関連する未解決問題の提示と考察も詳細に記した。 (2)移流拡散方程式の逆問題の基礎となるエネルギー依存逆散乱問題に取り組み、無反射散乱行列(すなわち反射係数が零の行列)を実現するポテンシャルの組を与える再構成公式を確立した。この再構成公式を、束縛状態が1つ(すなわち透過係数の極が1つ)の場合に適用しポテンシャルの組の存在定理を確立した。この存在定理はポテンシャルの組の存在のための散乱データの必要十分条件を与えており、束縛状態が1つの場合の逆散乱問題の完全な解答を与えている。また、このポテンシャルの組は非圧縮オイラー方程式に関連する非線形発展系の厳密解となっている。この成果は論文(プレプリントで36頁)にまとめ、専門誌に投稿(現在審査中)した。
|