研究代表者が提唱した「準変分解析」という非線形解析の考え方の枠組みのうち、定常的(楕円型)問題と非定常的(放物型)問題双方について研究を進め、下記の研究成果を得ることができた。 楕円型準変分解析問題に関しては、楕円型変分不等式と準変分不等式に関しての解の存在について抽象的定理を証明し具体的問題に応用した。存在定理においては、従来、汎関数の主部に狭義凸性を仮定していたが、本研究においては凸性のみを課すことで解の存在を証明することができた。存在定理は不動点解析に基づくが、従来は不動点の存在を示す写像の一価性を要請してSchauderの不動点定理を適用するために汎関数主要部の狭義凸性が必要であった。本研究では、多価写像に関する角谷の不動点定理を適用することによって、汎関数主要部の凸性のみを仮定するだけで不動点の存在を導き、解の存在を証明することに成功した。 放物型準変分解析問題に関しては、抽象的放物型変分不等式と準変分不等式の解の存在を証明することができた。方程式の形としてはEuler-Lagrange型に限らない空間微分作用素に関する非線形放物型偏微分方程式に適用できる抽象的理論を構築することに成功し、具体的問題に応用した。その際、時間依存劣微分発展方程式の理論と手法、特にエネルギー不等式の方法を効果的に適用した。このエネルギー不等式によって、不動点解析を行う際の評価を導くことが議論の主要部である。ただし、時間局所解を時間大域解に延長する議論を行う際に、想定していたよりも繊細な議論が必要になることが明らかになった。この困難を克服して、証明遂行と応用可能性確保を両立させるために、与えられた汎関数の準変分性に関する定義域に、時間に関して右半連続性という微妙な条件を課すことの適切性を認識することが、本研究を完成するにあたって重要であった。
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