研究実績の概要 |
非線形波動を表す様々な非線形偏微分方程式系の初期値問題を考察し, 時間大域解の存在条件や, 大域解の漸近挙動等を明らかにするのが本研究の目的である。初期値は小さいものに限定する代わりに, 可能な限り広いクラスの非線形項を統一的に扱うことを目指す。 昨年度に引き続き, 本年度は半線形波動方程式系の解の存在条件および漸近挙動に関する研究を進めた。この場合には, 大域解の存在を保証する古典的に有名な条件として零条件 (null condition) がある。また, 零条件の下では大域解は漸近自由であること, すなわち非線形項を持たない線形波動方程式系の解に時間とともに漸近していくことが知られている。 空間2次元および3次元での半線形波動方程式系に対して, 昨年度の研究により零条件よりも弱いような大域解存在のための条件が得られていた。また, 3次元の場合にはこの条件下で, 2次元の場合にはこれよりも若干強い条件の下で解の漸近挙動が半線形波動方程式系を簡約化して得られる常微分方程式系の解により記述されることも分かった。本年度は, この結果の応用として, エネルギーが保存され, 未知関数の時間微分のみに依存するような臨界次数の非線形項をもつ2成分の半線形波動方程式系を考え, その大域解の挙動を精密に分類した。得られた成果は以下の通りである: 3次元の場合には小さな初期値に対する全ての大域解は漸近自由だが, ある方向の成分のエネルギーが0になることが知られていた。他方, 2次元の場合には全く別の漸近挙動も起こりうることが明らかになった。具体的には, 非線形項の零点の持ち方に応じて, 3次元の場合と同様の挙動を示す場合, 漸近自由だが, 成分の消え方がより複雑な挙動を示す場合, そもそも漸近自由にならない場合の3通りに分かれることが分かった。
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