研究課題/領域番号 |
26400198
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤原 宏志 京都大学, 情報学研究科, 准教授 (00362583)
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研究分担者 |
滝口 孝志 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工, 総合教育学群, 准教授 (50523023)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 数値解析 / 非適切問題 / 第一種積分方程式 / 多倍長計算 / 高精度計算 |
研究実績の概要 |
本年度は分担者の滝口孝志(防衛大学校)との議論を通し,取り組んでいる第一種積分方程式の数値解の信頼性が,数値計算可能なある積分量の計算に帰着されるという結論を得た.また,本研究で必要となる高精度数値計算環境である多倍長計算環境について,従来,共有メモリ型の計算では並列化が困難と考えていた点について解決する方策を得た. 本研究で取り組む第一種積分方程式は,Colton-Kress らが逆散乱問題を帰着させたものであり,逆問題のモデルとして広く知られている.一方でその直接数値解法では,問題の不安定性に由来する誤差の増大を招く.そのため正則化法をもちいた計算がなされてきたが,この従来法では高精度な解の構成は困難であった.報告者はその解の構造を調べるうえで直接計算は有力な情報を与えると考え,報告者を含む研究グループが提唱する高精度数値計算をもちいることで,きわめて大きな振幅をもち振動するものの,ある種のパターンをもった数値解が得られていたが,その数値解の積分量をもとめることで,数値解の信頼性が得られることが分担者の研究により判明した. また,この計算を実行するうえで多倍長計算は不可欠であるが,従来,共有メモリ型の計算機での並列計算は実装されていなかった.これは,計算内部で利用するメモリ領域に複数のスレッドが同時に書き込むことで不整合が生じることを防いでいたものである.これに対してはフラグを利用するなどの方法が考えられるが,ユーザが明示的に初期化を必要とする必要があると考えられ,これまで導入してこなかった.これに対して共有メモリ型の計算で一般的に利用されるOpenMPの機能による解決が可能なことが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の遂行においては,理論・計算環境の整備の双方が不可欠である.本年はいずれの面でも,従来解決できていなった点について本質的な解決の糸口が判明するとともに,次年度の課題が具体的かつ明確になった.この点においては,きわめて順調に進んだと判断している. 一方,計算環境の整備の点においては,広く利用されている科学・技術計算環境のひとつであるMatlab上での移植が進行しなかった.これは,Matlabに多倍長計算環境を組み込むに際して並列計算が重要と考えたが,その実装に必要な技術的要因の調査に時間を要したためである.Matlabは一般的にPCなどの小規模なメモリで利用されることが多く,大規模かつ先端的な科学・技術計算を目的とした場合,これは深刻な障害ではないが,得られた研究成果を広く普及させるという点においては更なる調査が必要となると考えられる.一方,その調査過程において,共有メモリ並列計算環境における従来からの障害の解決の方策のアイデアを得ることができ,この調査は本来の目的であった大規模な問題の高速・高精度計算環境の整備としては大きく寄与した. 以上の点を勘案し,(2)おおむね順調に進展したと判断した.
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今後の研究の推進方策 |
研究課題の目的の達成のため,本年度判明した課題のうち次の2点の研究を進める.まず計算環境の整備の面において,従来開発してきた多倍長計算環境をマルチコアCPUなどの計算機上での共有メモリ並列計算環境(OpenMP)に対応させて公開する.またこのソフトウエアが広い普及のため,プログラムそのものの公開だけではなく,使用例などのサンプルプログラムやドキュメントも合わせて公開する.この点は直ちに取り掛かる予定である. 次に理論的な面において,これまでに得られている数値解の積分量を求め,共同研究者の滝口氏の提唱する指針が成立するか否かを検証する.これにより,第一種積分方程式の数値解法の信頼性評価についての新たな指標と典型的な例を合わせて発表する.滝口氏との討論で得られた結果は直ちに実行できるものであるが,計算例をそろえるために少し時間を要する.その計算が終了次第,滝口氏と対面での研究討論をおこない,本年度に得られた結果の検証をおこなう予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
主として共同研究者である滝口との研究討論のため,打ち合わせ旅費として計画していたものであるが,国内外の研究会などに両者が参加した場での討論をおこなう機会が得られた.その際に両者が得ていた最新の研究経過を報告することが効率的であると判断し,意見交換ならびに討論をおこなうことができた.また年度内に改めて別途の出張をおこなうよりも個別に研究を推進するのが全体の研究の推進において効率的であると判断した.これらの理由により,次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は最終年度であり,研究成果の発表のため,共同研究者である滝口と対面での討論をおこなうことが必要である.当初予定していた出張に加え,それ以上の結果やより精密な指針が得られる可能性について検討することも考えられ,そのための旅費として利用する予定である.
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