本研究の目的は、シフト不変なウェーブレットに基づき、電子透かし法に要求される条件や計算方法などに関して数学的な理論を構築し、さらに数値解析的手法を組み合わせた電子透かし法の開発を通じて、ウェーブレットや数値解析に対する新たな知見・応用を得ることである。 この目的を達成するため、昨年度までに、ダイアディック・ウェーブレット変換と区間演算に基づく電子透かし法の性質を数学的に明らかにし、それに基づいて新たにダイアディック・ウェーブレット・パケット変換に基づく電子透かし法を開発した。また、新たな画質評価指標を提案し、この指標と2重複素離散ウェーブレットに基づき従来のSSIMやPSNRよりも主観評価に近い新たな画質劣化評価方法を提案した。さらに、これらの開発で得られた知見をもとに、内視鏡画像からの早期食道癌の自動検出法の開発にも取り組んだ結果、ウェーブレット分解とフラクタル次元の組み合わせにより、早期食道癌を強調した画像の生成にも成功した。 本年度は、電子透かし入り画像の画質評価をPSNRやSSIMで行うと、主観評価とはほとんど一致しない、電子透かし法の性能を評価するための画質評価方法が確立されていない、という点に着目し、これまでに開発した画質評価法をもとに、電子透かし入り画像を主観的評価に近い形で評価できるような客観評価方法を開発した。また、既存の内視鏡画像からの早期癌自動検出に関する研究では、FICE(flexible spectral imaging color enhancement image)がほとんど利用されていなかったが、ウェーブレット変換による特徴量を統計的に扱うことで、早期食道癌の自動検出および炎症との区別が可能になることを示した。
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