本年度は、高病原性鳥インフルエンザA/H5N1(HP A/H5N1)に特有な白血球減少症の病理を再現する常微分方程式モデル(within-host model)を開発し、実験データを用いてパラメータの同定を行った。昨年度まで開発してきた遅延微分方程式のモデルに比べ高速なシミュレーションが可能となった。さらに、開発したモデルを用いてneuraminidase inhibitor 治療とimmunoglobulins治療の効果を評価した。 HP A/H5N1の自然免疫応答は季節性インフルエンザと異なっている。季節性インフルエンザでは白血球が若干増加するのに対して、HP A/H5N1では白血球のうちの好中球などが急激に減少し白血球減少症にいたる。同時に重い肺細胞の損傷も生じる。本研究では季節性インフルエンザの数理モデルをベースに白血球による感染細胞の破壊とそのときの相互による好中球の死滅をモデルに組み入れた。モデルのパラメータはHP A/H5N1に感染したmiceの白血球データから最小二乗法により決定した。開発したモデルによるシミュレーションでは重い細胞損傷も再現した。モデルを用いたシミュレーションよるHP A/H5N1治療の評価では、immunoglobulins治療はneuraminidase inhibitor 治療に劣らぬ効能が得られた 昨年度まで開発してきた遅延微分方程式モデルにおいても白血球減少症は再現できたが、硬い方程式系となったため、計算時間の点で流行伝搬モデルとの連成は困難であった。また、モデルが複雑であったため実験データによるパラメータ同定も難しかった。本年度はこの課題を解決した。
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