本研究の目的は、138億年の宇宙史において、密度環境によって銀河形成の偏りがとくに大きいと考えられる宇宙年齢10億年~30億年の初期の時代に注目し、すばる望遠鏡 等を用いて得られる共動座標で数100 Mpc のスケールという広視野の観測データに基づいて、初期の銀河形成過程の解明を目指すものである。平成 28年度は広視野多色撮像データに基づいて、また、前年度から引き続いて(1)SSA22 高密度領域における多色銀河解析とライマンα輝線等価幅解析、(2)SSA22領域の多色銀河サンプルの分光観測による銀河間ガス吸収の観測研究、(3)SSA22領域の非常に大きな輝線等価幅を持つ天体の多色スペクトル解析、(4)すばる望遠鏡広視野データなどによる広視野での銀河多色スペクトルの解析に基づく z=4 の時代の星形成銀河研究を進めたことに加え(5)SSA22 原始銀河団領域で発見された大質量銀河形成領域のすばるAO観測による形態の研究、(6)ALMA望遠鏡による原始銀河団領域の大質量銀河形成領域の研究も行った。輝線等価幅研究では、原始銀河団領域において、特に 250Åを超える大きな等価幅を持つ銀河の存在比が高いという観測結果を確立し、これを説明する低質量銀河の爆発的星形成の非常に若い段階が多数観測されるというモデルを提唱した(指導学生の修士論文として発表)。原始銀河団における中性ガスの観測では、狭帯域撮像データに基づいて、銀河間に数10Mpc スケールで広がる中性水素の分布を検出し、初期のガスの冷却、銀河形成との関係を論じた(Mawatari et al. 2017)。原始銀河団中の大質量銀河形成領域の AO およびALMAによる観測からは、最終的に合体し大質量銀河に成長する前の段階で、静的な段階に達した銀河と強いダスト吸収を受ける星形成銀河とが共存するフェーズがあることを明らかにした。
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