研究課題
銀河団1RXS J0603.3+4214の北側にあるtoothbrush電波レリック周辺領域のすざく衛星による観測データの解析を行った。電波レリック外縁では、電波観測からは非熱的電子のエネルギースペクトルからマッハ数~4程度の衝撃波の存在が予想されていたが、我々が温度分布から求めたところそのマッハ数は1.7程度となり、統計誤差、系統誤差の両者を考慮しても優位に異なることを示した。この結果は単純な衝撃波粒子加速理論に疑問を投げかけるものであり大変興味深い。また、電波レリックからの逆コンプトン散乱による非熱的X線の上限をもとめ、シンクロトロン電波との比較から磁場強度の下限値が数マイクロガウスとなることを示した。この結果は、磁場のエネルギー密度が、熱的ガスのエネルギー密度の数パーセント以上になることをしめし、レリック周辺の力学的進化に磁場が無視できない影響を及ぼす可能性を示している。以上の結果は Itahana et al. として投稿準備中である。銀河団Abell1367中にある電波銀河NGC3862の多波長偏波観測データの解析からローテーションメジャーマップを作成した。また、簡単な磁場構造モデルを仮定することで磁場強度を求めた。なお、この天体でこの種の情報が得られたことは初めてであることを強調しておきたい。以上の結果は Takahashi et al. として投稿準備中である。4つの力学的に緩和した銀河団(Hydra A, A478, A1689, A1835)の弱重力レンズとX線のジョイント解析をおこない、ヴィリアル半径付近で静水圧平衡の近似が破れている可能性が高いこと、また降着衝撃波モデルの場合よりも低いエントロピーの原因が密度超過ではなくて温度低下によるものであることを示した。また、弱重力レンズで求めた質量とヴィリアル半径でスケールすることで密度、温度、圧力およびエントロピーの普遍的なプロファイルを得た。以上の結果は Okabe et al.(2014)としてPASJ誌に掲載された。
2: おおむね順調に進展している
重力レンズ、X線、低周波電波観測において、アクセスできる観測データが順調にたまっており、多波長解析を行う環境は整ってきている。所属研究室においてX線観測データ解析の環境や知見については全く問題ない状況にある。また、低周波電波観測データ解析についてはノウハウの全くないところからはじめたが、電波天文学のエキスパートの共同研究者や、活動的な大学院生の貢献もあって、学問的な成果が出せるような環境を整えつつある。すざく衛星のキープロジェクトとして電波レリックに関するテーマが採択された。申請者は共同提案者に入っており、指導する大学院生とともに今後積極的に解析に携わっていく予定である。一方、シミュレーションコードの改良については、マンパワーの問題もあり一時的に停滞していることは否めない。ただ、「今後の研究の推進方策」のところにもあるように、より観測的研究の比重を高めるべき状況になりつつあることから、必ずしも大きな問題ではないと考えられる。
アクセス可能な興味深い観測データが増大していること、また、申請者の指導する大学院生で観測的研究を希望する人の割合が増えていることなどから、より多波長観測データ解析の側面を強くしていく方向で考えている。特に、申請者が共同提案者に入っている電波レリックに関するすざく衛星のキープロジェクトが採択されたこと、および、低周波電波で多くの観測データを抱えるグループとの共同研究が軌道に乗り始めたことは、この一年の間に本研究計画に大きな影響を与える出来事であった。
指導する大学院生によるX線観測データ解析および低周波電波観測データ解析で予想以上に成果が出たため、学会発表のための旅費が不足する状態になった。そのため山形大学理学部内の競争的資金である挑戦的研究計画助成に応募したところ無事に採択され30万円の研究費を得ることができた。なお、この助成金額は30万円で固定ということだったため、端数として3万円強の残額が発生した。なお、この金額は当該年度直接経費110万円のおよそ2.7%にすぎないのでさほど大きな問題ではないと思われる。
次年度の当初予定直接経費90万円に対して、今回生じた次年度使用額は3.3%にすぎないので大きな研究計画の変更は必要ないと考えられるが、プリンター消耗品等の購入に充てる予定である。
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Publications of the Astronomical Society of Japan
巻: 67 ページ: 印刷中
巻: 66 ページ: 99
10.1093/pasj/psu075