研究課題
昨年度に引き続いて、銀河団 1RXS J0603.3+4214 の toothbrush 電波レリック周辺領域のすざく衛星による観測データの解析をおこなった。電波レリック外縁では、電波観測からは非熱的電子のエネルギースペクトルからマッハ数~3程度の衝撃波が予想されていたが、我々が温度分布から求めたマッハ数は1.7程度となり、統計誤差、系統誤差の両者を考慮しても異なることを示した。この結果は単純な衝撃波粒子加速理論が成り立っていないことを示唆しており大変興味深い。また、逆コンプトン散乱成分の上限値より電波レリック領域での磁場の下限値を求めた。その結果、磁気圧がガス圧の数パーセント以上となりレリック周辺の力学的進化で磁場が無視できない可能性を示した。以上の結果は Itahana et al.(2015)としてPASJ誌より出版された。Itahana et al.(2015) の結果をうけて、衝撃波統計加速と磁気乱流加速との組み合わせでtoothbrush 電波レリックを再現する理論モデルを構築した。また、衝撃波と乱流での加速効率の違いによって他の天体の結果も説明しうることも示した。以上の結果は Fujita et al.(2015)としてApJ誌より出版された。典型的な衝突銀河団 A2256 内の偏波源(電波レリックおよび電波銀河)の多波長偏波観測データを解析した。電波レリックの偏光度に階段状の波長依存性があることを初めて発見し、その結果を利用して磁場および偏光源の視線方向の構造を議論した。また、ローテーションメジャーマップを作成し、簡単な磁場構造モデルを適用して磁場強度についての情報を得た。以上の結果は Ozawa et al.(2015)としてPASJ誌より出版された。
1: 当初の計画以上に進展している
重力レンズ、X線、および低周波電波観測においてアクセスできる観測データが順調にふえており、多波長解析をおこなう環境は整っている。所属研究室においてX線観測データ解析の環境や知見については全く問題ない状況にあり、順調に論文出版につなげられている。なお、X線観測データの解析を行った申請者の指導する大学院生が、その成果を評価され学内で表彰を受けた事例もあった。低周波電波観測データ解析についてはノウハウの全くない状況からはじめたが、電波天文学のエキスパートの共同研究者や、活動的な大学院生の貢献もあって、申請者および指導する大学院生が共著に入った論文が初めて出版されるところまでこぎ着けた。また、所属する研究グループ主催の偏波解析講習会で2年続けてチューターをつとめる院生を輩出した。次年度以降も論文出版が見込まれており、順調にすすんでいる。申請者が関わった観測結果に触発されたアイデアに基づく電波レリックの理論モデルの論文が出版された。また、電波観測の結果を解釈する上でより現実的な磁場構造を考える必要性を痛感し、そのような理論モデルの構築に取りかかっている。このように、これまではどちらかというと観測結果を理論的研究にフィードバックしていくサイクルが順調にすすみつつある。
アクセス可能な興味深い観測データが増大していること、また申請者の指導する大学院生で観測的研究を思考する人の割合が増加していることから、多波長観測データ解析の側面を引き続き重視していく方針である。次年度以降は、ALMAによるスニィヤエフ・ゼルドヴィッチ効果の観測結果も出てくる予定である。低周波電波観測の結果が出つつある一方で、結果の解釈により現実的な磁場構造モデルを適用することの重要性が高まってきている。今年度に指導する大学院生とともに予備的な研究をはじめたが、次年度以降本格的にモデル計算に取り組んでいきたい。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 5件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 1件)
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