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2015 年度 実施状況報告書

星周ダストをプローブとした大質量星の質量放出史と重力崩壊型超新星の多様性の解明

研究課題

研究課題/領域番号 26400223
研究機関国立天文台

研究代表者

野沢 貴也  国立天文台, 理論研究部, 特任助教 (90435975)

研究期間 (年度) 2014-04-01 – 2017-03-31
キーワードダスト(星間塵) / 超新星爆発 / プレソーラーグレイン / 減光曲線 / 可視光赤外線観測 / 質量放出
研究実績の概要

Ia型超新星で観測される特異な減光則が、その周囲に存在する厚いダストシェル中での多重散乱の効果により説明されるかどうかを調べるため、星周ダストによる赤外線エコー計算を行い、Ia型超新星の既存の近赤外線データと比較した。その結果、得られた星周ダスト量の上限値は、多重散乱によって特異な減光を引き起こすには不十分であることがわかった。本研究により、Ia型超新星の特異な減光則は星周ダストによる多重散乱ではなく、その視線上にある超新星母銀河の星間ダストに起因することが示唆された。

超新星起源のプレソーラーAl2O3粒子の形成環境を調べるために、超新星放出ガスの様々な密度・冷却率に対してダスト形成計算を行った。その結果、隕石中で発見される0.5ミクロンより大きいサイズをもつAl2O3粒子は、球対称超新星モデルによって予想されるよりも一桁以上密度の高いガス中で形成される必要があることがわかった。これはつまり、超新星放出ガスは一様ではなく、非常に密度の高い塊状として不均質に分布していることを示唆する。プレソーラー粒子の測定されたサイズに基づいてその形成環境に制限を与えたのは、本研究が初めてである。

太陽系外にその起源をもつプレソーラー粒子が原始太陽系星雲に取り込まれるためには、星間空間中での破壊を生き延びる必要がある。そこで我々は、星間乱流中でのダスト同士の衝突破砕による0.1ミクロンより大きいダストの破壊のタイムスケールを見積もった。その結果、1ミクロンのSiC粒子の破壊のタイムスケールは約10億年となり、グラファイト粒子よりも20倍以上も長いことがわかった。この破壊のタイムスケールの違いは、SiC粒子は星間空間ではマイナーなダスト種であるにも関わらず隕石中でその存在量が高い、という事実を説明することができる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

平成27年度の当初の目標である「ストカスティック加熱の計算コードの開発」と「超新星ショックブレイクアウトによる星周ダストの蒸発」の研究は遂行することができなかった。しかしその一方で、平成26年度に行った星周ダストによるエコー放射の研究をIa型超新星に適用し、その星周ダストの存在量は非常に小さいことを明らかにした。そしてIa型超新星に対する異常な減光則は、星周ダストによる多重散乱ではなくその視線上にある超新星母銀河の星間ダストに起因すべきであることを示し、これまでの定説を覆した。Ia型超新星は宇宙の標準光源として使用されているため、超新星の減光則と星間ダストの性質の関係の研究は極めて重要である。

また平成27年度は、隕石中で発見される太陽系外ダストの直接的な遺産プレソーラー粒子の形成・破壊過程にも着目した。これまでのプレソーラー粒子の研究は、その同位体組成から形成天体の特定を模索するのみであったが、本研究では初めてそのサイズという物理的性質から天体でのダストの形成過程、星間空間でのダストの破壊過程に洞察を与えた。ただプレソーラー粒子の形成進化史を解明する上では、隕石母天体での生存可能性も探る必要がある。プレソーラー粒子は、星間ダストの進化だけでなく惑星系の形成過程にも重要な示唆を与えるため、天文学と地球惑星科学を横断的に迫ることができるユニークな研究対象である。

以上をまとめると、当初には予期していなかった2つの研究を遂行したため、平成27年度における当該の研究目標は達成できなかった。しかし平成27年度に行ったこれらの研究は、星周ダストをプローブとした超新星親星の質量放出史の理解、および重力崩壊型超新星による星間ダストの供給過程についての理解を大きく前進させるものであり、本研究課題に大きく関連している。

今後の研究の推進方策

平成28年度は、前年度に完遂できなかった「ストカスティック加熱計算コードの構築」の研究を進め、ストカスティック加熱を考慮した星周ダストによるエコー放射計算コードを完成させる。また、前年度から着手した課題「Ia型超新星の特異な減光則の起源」の研究を発展させるとともに、重力崩壊型超新星から放出されたダストの輸送過程を調べ、銀河ハロー中のダストの起源について迫ることを目的とする。

Ia型超新星の特異な減光則と星間ダストの性質 --- 我々はすばる望遠鏡/COMICSを用いて、M82で起こったIa型超新星SN 2014Jの爆発1年後の中間赤外線観測を行っている。まずはその観測結果を早急に解析し、星周ダストエコー計算結果と比較して、Ia型超新星の星周ダスト量に強い制限を与える。その一方で、Ia型超新星で観測されている特異な減光曲線から、超新星母銀河中の星間ダストの組成やサイズ分布を見積もる。Ia型超新星の減光則の研究は、宇宙論パラメータの正確な決定に必須なだけでなく、星間ダストの起源・進化を明らかにする上でも重要な課題である。

超新星から放出されるダストの輸送と銀河間ダストの起源の解明 --- 超新星およびAGB星から放出されたダストが銀河中のどの範囲まで広がることができるのかは、これまで全く研究されていない。特に近年、銀河ハロー部の希薄な領域にも大量のダストが存在することがわかってきており、このダスト量を説明するには銀河円盤上の星で形成されたダストがハローへと輸送されなければならない。本研究では、超新星爆発時に放出されたダストの星間空間中における輸送過程と破壊過程を整合的に取り扱い、超新星ダストの到達距離や銀河間ダストの起源を解明することを目的とする。

次年度使用額が生じた理由

科研費助成金に次年度使用額が生じた主な理由は、本研究に必要な支出の一部を個人研究費でまかなうことができたためである。また平成28年度に一ヶ月ほど海外に滞在することが決定しているため、そのための十分な旅費を確保しておきたかったのも主な要因として挙げられる。

次年度使用額の使用計画

平成28年度の5月から6月にかけての一か月間、アメリカのサンタバーバラで行われる長期国際会議プログラムに参加することになっているため、助成金の多くはその旅費・滞在費に充てられる。また、本助成金によってノートパソコンの購入を計画しているほか、平成28年度後半には国際会議への参加や国内研究会の開催も検討している。

  • 研究成果

    (17件)

すべて 2016 2015 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件) 備考 (2件) 学会・シンポジウム開催 (1件)

  • [国際共同研究] 台湾中央研究院(台湾)

    • 国名
      その他の国・地域
    • 外国機関名
      台湾中央研究院
  • [国際共同研究] ソウル大学校(韓国)

    • 国名
      韓国
    • 外国機関名
      ソウル大学校
  • [雑誌論文] Concurrent Formation of Carbon and Silicate Dust in Nova V1280 Sco2016

    • 著者名/発表者名
      Itsuki Sakon, Shigeyuki, Sako, Takashi Onaka, Takaya Nozawa, Yuki Kimura, Takuya Fujiyoshi, Takashi Shimonishi, Fumihiko Usui, Hidenori Takahashi, Ryou Ohsawa, Akira Arai, Makoto Uemura, Takahiro Nagayama, Bon-Chul Koo, Takashi Kozasa
    • 雑誌名

      The Astrophysical Journal

      巻: 817 ページ: 145 (23pp)

    • DOI

      10.3847/0004-637X/817/2/145

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著 / 謝辞記載あり
  • [雑誌論文] Probing the Physical Conditions of Supernova Ejecta with the Measured Sizes of Al2O3 Grains2015

    • 著者名/発表者名
      Takaya Nozawa, Shigeru Wakita, Yasuhiro Hasegawa, Takashi Kozasa
    • 雑誌名

      The Astrophysical Journal Letters

      巻: 811 ページ: L39 (5pp)

    • DOI

      10.1088/2041-8205/811/2/L39

    • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
  • [雑誌論文] Constraining the Amount of Circumstellar Matter and Dust around Type Ia Supernovae through Near-Infrared Echoes2015

    • 著者名/発表者名
      Keiichi Maeda, Takaya Nozawa, Takashi Nagao, Kentaro Motohara
    • 雑誌名

      Monthly Notices of the Royal Astronomical Society

      巻: 452 ページ: 3281-3292

    • DOI

      10.1093/mnras/stv1498

    • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
  • [雑誌論文] Dust Processing in Elliptical Galaxies2015

    • 著者名/発表者名
      Hiroyuki Hirashita, Takaya Nozawa, Alexa Villaume, Sundar Srinivasan
    • 雑誌名

      Monthly Notices of the Royal Astronomical Society

      巻: 454 ページ: 1620-1633

    • DOI

      10.1093/mnras/stv2095

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著 / 謝辞記載あり
  • [学会発表] TAOで紐解くダスト形成過程2016

    • 著者名/発表者名
      野沢 貴也
    • 学会等名
      日本天文学会2016年春季年会
    • 発表場所
      首都大学東京 南大沢キャンパス(東京都八王子市)
    • 年月日
      2016-03-14 – 2016-03-17
    • 招待講演
  • [学会発表] 超新星ダストのサイズ分布2016

    • 著者名/発表者名
      野沢 貴也
    • 学会等名
      サイズ分布ビッグピクチャー研究会
    • 発表場所
      千葉工業大学スカイツリータウンキャンパス(東京都墨田区)
    • 年月日
      2016-02-11 – 2016-02-12
    • 招待講演
  • [学会発表] Physical Conditions of Supernova Ejecta Probed with the Sizes of Presolar Al2O3 Grains2015

    • 著者名/発表者名
      野沢 貴也
    • 学会等名
      第32回Grain Formation Workshop
    • 発表場所
      定山渓 渓流荘(北海道札幌市)
    • 年月日
      2015-12-09 – 2015-12-11
  • [学会発表] 超新星起源プレソーラーAl2O3粒子の形成環境2015

    • 著者名/発表者名
      野沢 貴也
    • 学会等名
      理論天文学研究会2015
    • 発表場所
      大仁ホテル(静岡県伊豆の国市)
    • 年月日
      2015-10-27 – 2015-10-29
  • [学会発表] Ia型超新星の特異な減光則を引き起こす母銀河ダストの性質2015

    • 著者名/発表者名
      野沢 貴也
    • 学会等名
      日本天文学会2015年秋季年会
    • 発表場所
      甲南大学(兵庫県神戸市)
    • 年月日
      2015-09-09 – 2015-09-11
  • [学会発表] On the Reddening Law Observed for Type Ia Supernovae2015

    • 著者名/発表者名
      Takaya Nozawa
    • 学会等名
      The 8th meeting on Cosmic Dust
    • 発表場所
      Chiba Institute of Technology (Tokyo Skytree Town Campus) (東京都墨田区)
    • 年月日
      2015-08-17 – 2015-08-21
    • 国際学会
  • [学会発表] Ia型超新星の特異な減光則から探る系外銀河のダスト特性2015

    • 著者名/発表者名
      野沢 貴也
    • 学会等名
      銀河進化研究会2015
    • 発表場所
      名古屋大学 坂田・平田ホール(愛知県名古屋市)
    • 年月日
      2015-06-03 – 2015-06-05
  • [学会発表] Dust Production Factories in the Early Universe2015

    • 著者名/発表者名
      Takaya Nozawa
    • 学会等名
      Frascati Workshop 2015: Multifrequency Behavior of High Energy Cosmic Sources
    • 発表場所
      Splendid Hotel La Torre, Mondello, Palermo, Italy
    • 年月日
      2015-05-25 – 2015-05-31
    • 国際学会 / 招待講演
  • [備考] Takaya Nozawa's Homepage

    • URL

      http://th.nao.ac.jp/MEMBER/nozawa/index.html

  • [備考] 国立天文台 理論研究部HP

    • URL

      http://th.nao.ac.jp/

  • [学会・シンポジウム開催] The 8th meeting on Cosmic Dust2015

    • 発表場所
      Chiba Institute of Technology (Tokyo Skytree Town Campus) (東京都墨田区)
    • 年月日
      2015-08-17 – 2015-08-21

URL: 

公開日: 2017-01-06   更新日: 2022-02-28  

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