研究課題
本研究の特色は、その場測定や室内実験など惑星科学の分野で得られた知識を天文分野にフィードバックし、天文観測データの解釈に新たな視点を提供することである。当該年度では、(1)スターダスト探査機でサンプルリターンされた星間ダストの鉱物組成・化学組成分析結果(2)カッシーニ探査機における星間ダストその場質量スペクトル分析結果(3)星間空間起源ピックアップイオン(H, N, O)の空間密度その場測定から推定される星間ダストの元素組成それぞれが矛盾なく説明出来る星間ダストの物質・空隙率・サイズ分布を同定する試みを行った。その結果、星間ダストの有機物成分が、太陽から数百天文単位まで近づいた時点で昇華したと仮定すると、上記(1)~(3)が矛盾なく説明できることがわかった。これは、おそらく、太陽光で温められた有機物中のラジカルが発熱反応を起こし、爆発的なエネルギーにより温度が急激に上昇した結果、有機物成分が昇華したためであろうと考えられる。さらに、カッシーニ探査機によるデータを詳細に解析したところ、サブミクロンサイズの星間ダストは空隙率が低く、シリケイトはマグネシウムに富み、鉄は金属として存在していると結論付けることができた。また、星間ダストの粒子ごとの組成のばらつきは非常に小さく、彗星ダストの組成のばらつきが星間起源であるというこれまで考えられてきた論拠は薄弱であることがわかった。この結果は、ダストが星周で形成された後、星間で昇華・凝縮が繰り返し起こっていることを示唆している。同様の昇華・凝縮は星・惑星形成時のほうが起こりやすく、彗星・デブリ円盤ダストは変成した星間ダストではなく原始惑星系円盤凝縮物である可能性が高くなった。
3: やや遅れている
カッシーニ探査機における星間ダストその場測定データの分析や、投稿論文の査読・改定プロセスに多大な時間を要した。総合的に考えて、本研究課題の進捗状況については、やや遅れていると思われる。
次年度には、中間赤外線スペクトルを数値計算し、彗星やデブリ円盤の赤外線スペクトル観測データとの比較を行うことが、主な研究課題となる。本研究の計画段階では、有効媒体近似(EMA)や離散双極子近似(DDA)によって計算を行う予定であったが、Tマトリックス法を用いた数値計算コードが大幅に改良されたこともあり、Tマトリックス法の使用により、計算時間を短縮することも試みる。また、高速数値計算機を購入することで、スペクトル計算の高速化を図り、今後の本研究を推進する。
カッシーニ探査機における星間ダストその場測定データの分析や、投稿論文の査読・改定プロセスに多大な時間を要したことで、本研究課題が予定通り進捗しなかった結果、予算執行についてもやや遅れ気味となり、次年度使用額が生じた。
データ記憶装置兼高速数値計算機を購入し、本研究課題の進捗の遅れを取り戻す。
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