研究課題
本年度は、重力波対応天体の観測に向けて、中性子星合体から予測される電磁波放射 (kilonova) に関する研究を主として行った。中性子星合体の数値流体シミュレーションの結果をもとに、最新の原子核データを適用した元素合成コードを用いてrプロセスの計算を行い、放射性元素の崩壊による加熱率の計算を行った。その結果を用いて重力波対応天体の電磁波放射の計算を行った。2017年8月にLIGO重力波望遠鏡により初めての中性子星合体からの重力波 (GW170817) が検出されると同時に様々な望遠鏡で電磁波放射の詳細な観測が行われた。その結果は、我々の予測した中性子星合体のkilonovaモデルの一つと驚くべきほどよく一致していた(Tanaka et al. 2018; 出版済み)。これより、我々が以前から提案していたとおり、中性子星合体でrプロセスが起きていることがほぼ確実となった。しかしながら、GW170817に対応するkilonovaの観測から推定された原子番号56以上のrプロセス元素の質量比は予想された値の1/10以下に留まり、また、プラチナ(原子番号78)、金(79)、ウラン(92)のような元素が合成された証拠は得られていない。次回以降のkilonova観測に備えて、金やウランの合成を検証するための元素合成の計算を行った。ウランまでの元素が合成されれば、ベータ崩壊だけでなく、核分裂が起きることに注目して、特に核分裂からの加熱率の寄与を考慮した(論文投稿準備中)。また、小さい銀河(ミニハロー)の合体によって銀河系が形成されたという構造形成モデルに基づく銀河の化学進化の計算により、中性子星合体がrプロセス元素の主要な起源である可能性が高いことを示した。同時に、同じモデルのミニハローが矮小銀河の化学進化を説明できることを示した(Ojima et al. 2018; 論文投稿済み)。
1: 当初の計画以上に進展している
2017年8月17日にLIGO重力波天文台により中性子星合体からの重力波および電磁波対応天体が検出されたことにより、これまでの研究成果の検証を行うことができ、さらに問題点も明確にすることができた。
2018年後半よりLIGO/Virgo重力波天文台が再稼働し、中性子星合体の観測数が大幅に増加することが予測される。それに備えて、さまざまな中性子星合体モデルによる元素合成および電磁波放射の計算を行い、中性子星合体が金やウランを含むrプロセス元素の主要な起源であるかを検証する。
理由:次年度が最終年度であることから成果公表のための論文投稿料および出張費が必要となるため。また、中性子星合体の重力波が検出されたためにさらなる計算が必要となり、その膨大な計算データを保存するためのハードディスクが必要となるため。使用計画:論文投稿料、出張費、大容量ハードディスク購入に使用する。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 6件、 オープンアクセス 5件、 査読あり 5件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 5件、 招待講演 4件)
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