研究課題/領域番号 |
26400238
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
隅野 行成 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80260412)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | トップクォーク / 精密測定 / 質量 / LHC実験 / リニアコライダー実験 |
研究実績の概要 |
本年度は(年度末に)Particle Data Groupのtop sessionの著者の役目を前任者の萩原氏から引き継ぎ、トップクォークの諸性質のデータコンパイルを行なった。主にTevatronとLHCから得られた膨大かつ貴重なデータを精査し、トップクォークの性質をParticle Data Groupの表に掲載するべくコンパイルした。これは素粒子分野を超えて現在の物理学分野全般に対する重要な貢献であると認識している。次に、将来のリニアコライダー実験のトップクォーク閾値付近でのトップクォーク質量の精密測定可能性について、最近の理論の進展を取り入れて再計算を行なった。この結果、理論的には従来の精度よりも向上して、原理的に20~30MeVの精度でトップクォークのMSbar質量を決められることが分かった。この結果は共同研究者の清氏によりリニアコライダーの国際ワークショップで発表され注目された。特にPotential-subtracted massなどの補助的な質量定義を使わずに直接MSbar質量を決定すべきであるという我々の主張が広く認識された。一方でLHC実験における重み関数を用いたトップクォークの高精度決定のプロジェクトも進展した。9月に共同研究者の川端氏がイタリアのトップクォーク国際ワークショップで研究の現状を発表し、Peskin, Nason, Manganoらから高い評価を得た。またATLAS及びCMS実験グループと共同研究を開始した。この方法が現実の実験的な環境を考慮しても機能するかどうかを、実験のfull simulationを用いて検証している段階である。そして最近NLOの摂動QCD補正の効果も取り入れたシミュレーション研究を開始した。 これら以外にも関連性の深い研究結果として、ボトムとチャームクォークMSbar質量を高精度で決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リニアコライダー実験計画でのトップクォーク質量の高精度決定に関する理論予言については、当初の見込みよりもはるかに進展したと言ってよい。それは完全なNNNLOの摂動QCD補正計算が、トッポニウムのエネルギーレベルだけでなく、生成断面積、及びトップ質量についても完成したからであり、これは想定以上の大きな進展と言える。またこの結果を用いてMSbar質量の優位性を示せたことも、予想できたこととはいえ、大きなインパクトを与えることが出来たという点で、重要な成果と言える。 重み関数を用いたLHC実験でのトップクォーク質量の測定については、実験家との共同研究を開始できたことは順調であると言える。ATLAS,CMS両実験グループとの共同研究をスタートできたことは、この研究の重要性が認識されたということと同時に、我々の研究成果のアピールも十分出来ていることを示していると考えられる。一方で高次補正を含めた理論的な解析に関してはやや遅れ気味であるが、これはNLO補正を含むシミュレーションツールの開発がやや遅れているためである。細かいバグを取り除くのが意外と時間が掛かっている。この点に関しては今後鋭意努力して問題解決に努めたい。 Particle Data Groupのtop sessionの著者としての仕事は当初の予定には全く入っていなかったが、この研究プロジェクトとの関係が深く、また物理学分野全般に対する貢献度も大きいことから引き受けることにした。これも重要な成果と言っても過言ではないだろう。
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今後の研究の推進方策 |
やや遅れているNLOのシミュレーション解析を進める。既にNLOでの重み関数は計算してある。NLOのトップ崩壊を含むシミュレーションツールは概ねは使用できているのであるが、細かいデバッグの途中である。この効果を含むシミュレーションツールは他にほとんどないが、MadGraphのツールでトップ生成から崩壊までのNLO補正を含むものをFrederix氏が開発中ということなので、そちらとの比較が出来ないかを打診中である。今後そちらとのcross checkを行ないたい。それがうまく行けば、NNLO補正を重み関数に含める。これはベースとなるトップ崩壊の微分断面積の理論計算結果が存在するので、それを使って重み関数への補正を計算する。シミュレーション計算にはNNLO補正を含めることは現状では難しいので、NNLO理論計算に基づく重み関数とNLOシミュレーション計算を組み合わせて、NNLO補正の大きさを評価する。現在のところNLOのスケール依存性から、pole質量を使う限りNNLO補正は数百MeV程度で十分小さいだろうと見積もっている。最終的に実験データを使う段階では、理論誤差はNNNLO補正以上ということになるので、これは無視できると考えている。 実験家との共同研究は、現在はfull simulationを用いて理論計算の再現性のチェックを行なっている段階である。それがうまく行けば、レプトンPTカットの補正を正確にできるかどうかの確認を行なう。入念にこれらの検証を行なった後、実データを用いた解析に進む。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた研究打ち合わせが、先方の都合がつかずに次年度に延期となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
研究打ち合わせを次年度に行なう。
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備考 |
Invitation to join the Excellence Cluster as a visiting scientist from 12th October until 12th November 2015, host Prof. Nora Brambilla.
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