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2016 年度 実施状況報告書

最新の精密宇宙観測及び素粒子理論に基づくインフレーションの研究

研究課題

研究課題/領域番号 26400239
研究機関東京大学

研究代表者

諸井 健夫  東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (60322997)

研究期間 (年度) 2014-04-01 – 2018-03-31
キーワード高エネルギー宇宙線 / ニュートリノ / Peccei-Quinn 対称性 / インフレーション / flaxion
研究実績の概要

本年度はまず、高エネルギー宇宙線ニュートリノの起源についての研究を行った。IceCube 実験は PeV スケールのエネルギーを持つ高エネルギー宇宙線ニュートリノを観測しているが、その起源についてはまだ理解されていない。本研究においては、過去の宇宙において崩壊した粒子から放出されたニュートリノが PeV 宇宙線ニュートリノの起源となる可能性について研究した。とくに Peccei-Quinn 機構と呼ばれる強い CP 問題の解となる機構に付随する重たいフェルミオンの崩壊が PeV 宇宙線ニュートリノの起源となり得ることを定量的計算により明らかにした。この成果は Physics Letters B 誌に掲載された。
また、連続群で記述されるフレーバー対称性が存在する場合、その自発的破れに伴う南部・ゴールドストンボソンは、強い CP 問題の解決する axion として振る舞うことを指摘した。さらに、そのような模型における宇宙論を議論した。特に、フレーバー対称性を破るスカラー粒子がインフレーションを引き起こすという役割を果たし得ることを明らかにするとともに、その場合通常の axion 模型に存在する宇宙初期ドメインウォール生成の問題が解決され得ることを指摘した。さらに、そのようなシナリオにおける axion の物理とフレーバーの物理の関連についても明らかにした。この成果は JHEP に掲載された。
さらに、超対称模型において新たなベクトル的粒子が存在する場合、グルーオンの超対称パートナーであるグルイーノ粒子の質量に上限が現れることを指摘し、その LHC 実験に対する意味を議論した。この成果は Physics Letters 誌に掲載された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

2016年度は、高エネルギーニュートリノの起源やフレーバー対称性とPeccei-Quinn対称性を同時に説明する可能性について、新たな知見を得ることができた。さらに【研究実績の概要】欄に述べた業績の他にも、超対称模型において新たなベクトル的新粒子がある場合にはグルイーノ(グルーオンの超対称パートナー粒子)の質量に上限が現れることを明らかにした。さらに、LHC実験によりその存在が示唆された750GeV程度の質量を持つdi-photonレゾナンスに関しても、その性質を将来の電子・陽電子型線形加速器の果たし得る役割を研究した。その結果、6本の査読論文を完成・出版した。
また、本研究計画の主要な目的である、宇宙初期元素合成をもとにした長寿命粒子にたいする制限についても、順調に研究は進展している。宇宙初期に高エネルギー粒子(ハドロン、光子、レプトン)が長寿命粒子崩壊によって放出された際に形成されるハドロンシャワー及び電磁シャワーの性質については、数値計算の手法をすでに確立している。また、そのシャワーの効果を取り入れた軽元素合成の数値計算プログラムについても、過去の研究で使用した数値計算プログラムを修正することにより、完成している。さらに、制限を課すべき粒子の代表例であるグラビティーノ(超対称模型における重力子の超対称パートナー)について、その崩壊から生じる粒子のエネルギースペクトルについても、計算が完了している。
さらに、不安定な真空の崩壊に関しても、ゲージ場の効果を正しく取り入れた新たな計算方法を、簡単な模型に関しては導出することに成功した。
以上から、高エネルギー宇宙線の起源やPeccei-Quinn模型、さらには真空の崩壊についての新たな知見を得ることができたということにあわせ、2017年度に行うべき研究の予備研究も順調に進んでいると考える。

今後の研究の推進方策

2017年度はまず、宇宙初期元素合成をもとにした長寿命粒子にたいする制限について、研究を完成させる。2016年度までに完成させた、宇宙初期に放出された高エネルギー粒子により形成されるハドロンシャワー及び電磁シャワー計算の数値計算プログラムと、そのシャワーの効果を取り入れた軽元素合成の数値計算プログラムを統合し、超寿命粒子の寿命の関数として可能な長寿命粒子の残存量の上限を求める。さらに、グラビティーノの残存量はインフレーション後の宇宙再加熱温度に(ほぼ)比例するため、グラビティーノ残存量に対する制限を導出することにより、宇宙再加熱温度の上限を求める。
また、初期宇宙における相転移や我々の住んでいる真空の安定性を議論するためには、不安定な真空の崩壊率の正確な計算方法を確立することが必要である。簡単な模型に関しては、2016年度の研究で、真空の崩壊率の計算に関して新たな知見を得ることができた。2017年度は、この研究を発展させ、不安定な真空の崩壊率計算について、理解を深める。特に、標準模型におけるヒッグスポテンシャルの不安定性や、超対称模型におけるカラーや電荷の破れが生じる真空への相転移の研究に対して得られた知見を応用する予定である。
今年度は研究最終年度であるため、これまでに行われた研究を総括し、これからの発展の可能性を探る。

次年度使用額が生じた理由

研究打ち合わせのための出張(東京・つくば間)を延期し、2017年度に行うこととした。

次年度使用額の使用計画

次年度使用額については、延期した研究打ち合わせを行うための旅費として使用する。それ以外の研究計画は変更はない。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2017 2016

すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 1件)

  • [雑誌論文] Flaxion: a minimal extension to solve puzzles in the standard model2017

    • 著者名/発表者名
      Y. Ema, K. Hamaguchi, T. Moroi and K. Nakayama
    • 雑誌名

      JHEP

      巻: 1701 ページ: 096

    • DOI

      doi:10.1007/JHEP01(2017)096

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Bottom-tau unification in a supersymmetric model with anomaly-mediation2016

    • 著者名/発表者名
      S. Chigusa and T. Moroi
    • 雑誌名

      Physical Review

      巻: D94 ページ: 035016

    • DOI

      doi:10.1103/PhysRevD.94.035016

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [雑誌論文] Production and Decay of Di-photon Resonance at Future e+ e- Colliders2016

    • 著者名/発表者名
      H. Ito and T. Moroi
    • 雑誌名

      Physical Review

      巻: D94 ページ: 015021

    • DOI

      doi:10.1103/PhysRevD.94.015021

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Upper Bound on the Gluino Mass in Supersymmetric Models with Extra Matters2016

    • 著者名/発表者名
      T. Moroi, T.T. Yanagida and N. Yokozaki
    • 雑誌名

      Physics Letters

      巻: B760 ページ: 681

    • DOI

      doi:10.1016/j.physletb.2016.07.061

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Early decay of Peccei Quinn fermion and the IceCube neutrino events2016

    • 著者名/発表者名
      Y. Ema and T. Moroi
    • 雑誌名

      Physics Letters

      巻: B762 ページ: 353

    • DOI

      doi:10.1016/j.physletb.2016.09.048

    • 査読あり

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公開日: 2018-01-16  

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