研究課題/領域番号 |
26400240
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大栗 博司 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 主任研究員 (20185234)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 素粒子論 / AdS/CFT対応 / ホログラフィー原理 |
研究実績の概要 |
昨年、MITのHong Liuとカリフォルニア工科大学の大学院生のBogdan Stoicaと共同で発表した"Hall Viscosity and Angular Momentum in Gapless Holographic Models"は、ホログラフィー原理を使って、2+1次元のギャップのない相対論的場の量子論の流体力学的近似でのホール粘性係数と角運動量の自発的生成を計算し、それを比較したものである。今年度は、この論文での計算をさらに整理し、論文を推敲して、査読誌Physical Review Dに掲載した。 また、シカゴ大学の大学院生Jennifer Lin、カリフォルニア工科大学の数学教授Matilde Marcolli、また、Bogdan Stoicaと共同で、"Tomography from Entanglement"と題する論文を発表した。場の量子論の「量子もつれ」の情報を使うと、ホログラフィー原理で対応する重力理論のエネルギーの局所的な分布を、ホログラフィー原理で対応する場の量子論の「量子もつれ」のエントロピーで表現することに成功した。重力理論の時空間の局所的な性質が、場の量子論の量子もつれの情報からどのように現れるのかが解明された。これは、ホログラフィー原理から時空が創発する様子を微視的に理解するという本研究の達成に向け、大きな進歩といえる。また、量子情報理論を使って導くことのできるエントロピーに関する不等式から、重力理論のエネルギー・運動量・ストレス・テンソルの満たすべき不等式を発見した。これは、古典的な一般相対性理論のエネルギー条件と異なり、どのような量子重力理論で一般的に満たすべき不等式であり、量子重力理論を理解するうえで役に立つと思われる。 さらに、最近大きく進歩している共形場の理論の「ブートストラップ」の方法を、数値的にではなく、解析的に分析する方法を開発して、これをホログラフィー原理の理解に役立てようとしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
"Tomography from Entanglement"と題した論文は、「ホログラフィー原理から時空が創発する様子を微視的に理解する」という本研究の目的に向けた大きな進歩であり、本研究は計画以上に進展しているといえる。この成果は、サンタバーバラのカブリ理論物理学研究所でのセミナー、カリブ海で開催されたサイモンズ・シンポジウム、ケンブリッジ大学で開催されたEurostrings 2015でも発表している。 この研究で明らかになった、場の量子論のエントロピーの不等式と、量子重力理論のエネルギー条件の関係は、量子情報理論の研究者の間でも話題になっており、この研究成果により、彼らとの新しい共同研究も始まっている。このように、この研究成果は、本件球のさらなる進歩への飛躍台になっている。 また、この成果を共形場の理論の「ブートストラップ」の方法による知見と組み合わせることで、さらに大きな洞察が得られると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
"Tomography from Entanglement"で明らかになったエントロピーの不等式と、量子重力の様々な不等式の関係をさらに追及していく。すでに、量子情報理論の研究者との共同研究が始まっており、一般の量子力学系の量子からみのエントロピーの満たす不等式条件と、ホログラフィー原理により重力理論の幾何学的記述と対応がつく量子力学系の量子からみのエントロピーの満たす不等式条件の関係が明らかになりつつある。無論、後者の方が条件が強いわけであるが、どのように強いのか、またそれがどのような意味を持つか、それによってホログラフィー原理によって幾何学的記述を持つ量子力学系をどのように特徴付けることができるか、などについて微視的な理解が進められると期待している。 また、最近長足の進歩を遂げている共形場の理論の「ブートストラップ」の方法を取り入れることで、ホログラフィー原理の研究に新たな境地を開こうとしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末近くの出張の際に、旅費の節約により、予定額より支出が下回ったからである。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、カブリ数物連携宇宙研究機構で、本研究に関連した国際会議を予定しており、これに関連した旅費に使う。
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