研究課題/領域番号 |
26400244
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
江尻 信司 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (10401176)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 素粒子論 / 計算物理 |
研究実績の概要 |
QCDの有限温度相転移は、低密度で熱力学的特異性を持たないクロスオーバーであったものが、ある臨界密度で一次相転移に変わることが予想されている。その相転移の次数が変わる臨界点を見つけることが、現在、理論・実験どちらからも注目されている。本研究では、格子QCDの数値シミュレーションを行うことにより、その臨界点をQCDの第一原理計算で見つけることを目指す。 有限密度では、シミュレーションの重みにあたる量が複素数になる問題があり、QCDの数値シミュレーションは直接行うことができない。その問題を避けるために、本研究では、2つのアプローチで研究を続けている。1つは、クォーク質量やクォークの種類の数(フレーバー数)も調節できる変数として扱い、理論のパラメータ空間を広げて、計算しやすいパラメータ領域から出発して、徐々に現実のクォーク質量に近づけていく方法で、もう一つは、有限密度で、複素数の重みの位相因子を除いて配位生成を行い、位相因子の効果は物理量の測定の時に補正するという方法である。それらによって一次相転移に変化する臨界点の探索を行っている。 また、一次相転移での最も重要な特徴である潜熱について、潜熱の定量的な測定が可能か、どのように計算すべきかということを議論するために、一次相転移の身近な例であるクエンチQCDにおける相転移に注目し、そこでの潜熱の計算を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
軽い動的クォーク2フレーバーと重いクォークが多フレーバーある系の方が、現実のQCDより有限密度でクロスオーバーから一次相転移に変わる臨界面の決定が容易で、その系の研究で成果があった。重いクォークのフレーバー数が十分多い系から出発して、臨界面をフレーバー数の少ないところにたどっていくと、重いクォークの化学ポテンシャルが十分大きなところでは、フレーバー数が少なくても臨界面についての信頼できる情報が得られることが分かった。また、多フレーバーのクォーク質量が無限大、通常の2フレーバーQCDのカイラル極限が一次相転移か二次相転移かという問題は重要な未解決問題で、2フレーバーの質量を変えて臨界面の変化を調べ、パラメータ空間内の通常の2フレーバーQCDに相当する点が一次相転移領域にあるかどうかを調査した。我々の結果は二次相転移であることを支持するものであった。 その多フレーバー系の研究では近似計算を行っているが、近似を減らして、フレーバー数が少なくなっても、ある程度近似が妥当なように計算を改良することも可能である。クォークのフレーバー数が十分多い場合から出発して、物理として最も興味がある、アップ、ダウン、ストレンジクォークを含む3フレーバーの物理につなげていきたいと考えている。さらに、化学ポテンシャルなど、パラメータを複素数に拡張する研究も始めていて、それについても、面白い結果を出したいと思っている。 クエンチQCDにおける相転移点での潜熱の計算では、潜熱の空間体積依存性や、格子間隔依存性についても調べることができた。一次相転移の性質を調べる方法の議論に大いに役に立つことが期待できる。 位相因子を除いた有限密度QCDのシミュレーションについては、スーパーコンピュータ用プログラムを開発中で、大規模計算にむけて準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
フレーバー数が多い場合の相転移の次数が変わる臨界面の探索を有限密度で行う。さらに、質量分の1で級数展開した近似を用いないような計算も行い、その近似の適用領域を調べながら、フレーバー数が少なくても妥当なように解析を改良して、現実のQCDの理解につなげたい。さらに、化学ポテンシャルを複素数にすることによっても有益な情報を得たいと考えている。 また、一次相転移での潜熱の計算方法についても議論し、方法論として確立させたい。 位相因子を除いた有限密度QCDのシミュレーションの本格的なランを、スーパーコンピュータで始め、我々のアプローチでどこまで高密度の計算が可能か確かめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
クラスターコンピューターの増設を予定していたが、しばらくの間、既存のコンピュータをそのまま使い続けた方がいいと判断したため、コンピューターの増設を行わなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究最終年度としては、クラスターコンピューターでなく、解析用の大容量ハードディスクを搭載した計算機の方がより必要となるため、そのような計算機を購入する予定である。
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