研究課題
ハドロン相からクォーク・グル-オン相に変化するQCDの有限温度相転移は、低密度では熱力学的特異性を持たないクロスオーバーで、ある臨界密度から一次相転移に変わると予想されている。その相転移の次数が変わる臨界点を見つけることが、現在、理論・実験どちらからも注目されている。本研究の目的は、格子QCDの数値シミュレーションを行うことにより、その臨界点をQCDの第一原理計算で求めることである。QCDの有限密度系では、シミュレーションの重みにあたる量が複素数になる問題があり、数値シミュレーションを直接行うことができない。その問題を避ける手段として、確率分布関数に着目して相転移の性質を調べる方法を提案した。その方法を用いて、まず、すべてのクォークが重い領域での相構造を調べ、一次相転移とクロスオーバーの領域を分ける臨界線を任意の密度で決定した。さらに、質量だけでなく、クォークの種類の数(フレーバー数)も調節できる変数として扱った。計算しやすいパラメータ領域から徐々に現実のクォーク質量に近づけるというアプローチで、フレーバー数が多い場合に、クォーク質量が軽い場合でも、一次相転移でなくなる臨界質量を計算することができた。同時に、格子ゲージ理論の枠内で、一次相転移点があるとき、転移点近傍での熱力学量の解析方法を確立することも重要である。一次相転移の特徴は相転移の前後で潜熱を放出・吸収することである。その潜熱を動的クォークのないクエンチQCDで計算した。潜熱の計算には、熱力学量の計算によく使われる積分法は不適切で、微分法と呼ばれる方法が必要になる。その微分法により潜熱の連続極限の値まで計算した。また、最近注目されているグラディエント・フローという方法を用いた熱力学量の計算も行った。すでに確立している積分法、微分法の弱点を補い、QCD相転移の研究が劇的に進展することを期待している。
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