近年、アジョイント表現に属するフェルミオンを伴うSU(N)非可換ゲージ理論に大きな関心が持たれている。その理由の一つに、AdS/CFT対応がある。これによると、4次元超対称ゲージ理論と、Anti de Sitter時空を背景にもつ5次元超弦理論が対応している。特にゲージ理論でラージN極限をとると、対応する5次元の理論は古典的超重力理論となる。一般にSU(N)非可換ゲージ理論は複雑な構造を持っているが、Nを無限に持っていった極限で、4次元格子上で定義されたSU(N)格子ゲージ理論は、時空の自由度を持たない行列理論と同等になる。アジョイント・フェルミオンを持つラージNゲージ理論も行列理論を用いて解析ができ、これを詳細に行うのが本研究の目的である。物理的に最も重要なフェルミオン数が2の理論は、赤外固定点を持つコンフォーマル理論であると考えられている。固定点での性質を支配する質量異常次元を行列理論を用いて計算し、研究結果を素粒子論関係の専門誌Journal of High Energy Physics(インパクトファクター6.1)に発表した。 ハドロン質量の計算は、格子上の場の理論に課せられた最も基本的および重要な課題であるが、行列理論を用いたラージN極限での計算はなされていなかった。中間子質量は、中間子相関関数の遠距離での振る舞いから得られる。基本表現に属する中間子相関関数の計算法を確立し、論文を素粒子論関係の専門誌Physics Letters B(インパクトファクター6.1)に公表した。平成28年度は、ラージN極限での大規模計算の中間結果を、英国サザンプトン大学で行われた格子上の場の理論国際会議で発表した。今後もこの研究を続け、最終結果を専門誌へ公表する予定である。
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