研究課題/領域番号 |
26400250
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
稲垣 知宏 広島大学, 情報メディア教育研究センター, 教授 (80301307)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | インフレーション / 複合スカラー場 / 南部、ヨナ・ラシニオ模型 / ヤコビの楕円関数 / 非平衡熱場の量子論 / 宇宙背景輻射 / 自発的対称性の破れ / 国際情報交換(スペイン、中国) |
研究実績の概要 |
非平衡熱場の量子論を素粒子理論に適用し、自発的対称性の破れに伴う新しい高エネルギー臨界現象を発見することを目的に研究を実施した。 平成26年度の研究で確立した宇宙初期揺らぎを対象に新しい高エネルギー臨界現象を探る処方を、複合スカラー場の模型に適用することを試みた。前年度の研究でも用いた、繰り込み群による模型の書き換えが有効である複合スカラー場のスケールを十分大きく取った極限において、ゲージ相互作用の大きさを適切にとることで、模型のパラメータのほとんど依ること無しに宇宙背景輻射の観測値を再現できることを明らかにし論文にまとめ発表した。本研究により、複合スカラー場によるインフレーションという初期宇宙の新しいシナリオを構築することができた。 これと並行して、平衡状態から外れた古典解近傍でのスカラー場の量子論の構成と計算方法の開発を進めた。ヒグス模型でも用いられる4次関数で記述されるポテンシャル下での運動方程式の解はヤコビの楕円関数を用いて表すことができる。スカラー場をこの解の周りで展開することで、平衡状態から大きく外れた現象を記述する枠組みの構築を進め論文にまとめ発表した。さらに、有効模型における正則化依存性の系統的な解析についても、平成26年度の研究成果を推し進め、より現実的な3フレーバー南部、ヨナ・ラシニオ模型における詳細な解析結果を論文にまとめ発表した。 また、世話人として「熱場の量子論とその応用」研究会(京都大学)、1st CORE-U International Conference: Intense Fields and Extreme Universe(広島大学)を企画、運営し、最新の研究情報収集と境界領域の拡大に寄与できたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的達成に向けて、平成27年度は、自発的対称性の破れに伴う新しい高エネルギー臨界現象の解析処方を複合スカラー場の理論に応用すること、非平衡熱場の量子論を拡張すること、具体的な物理現象解析に必要な計算処方を開発すること、の3点を大きな柱とした研究計画を立てていた。 複合スカラー場の理論に支配されたインフレーション期の宇宙の解析は、これまでにほとんど議論されておらず、現実的な宇宙背景輻射の導出に時間を要したが、S.D.Odintsov教授(ICE、スペイン)と頻繁に研究連絡を行う中で観測と矛盾しない魅力的な模型を構築することに成功した。得られた模型は、宇宙背景輻射の揺らぎのスペクトルの不定性がほとんどなく、今後の観測の進展による検証可能性が高いといった特徴を持っている。複合スカラー場のエネルギースケールを有限な値に取る等、実施すべき課題は残っているが、S.D.Odintsov教授に広島大学を訪問してもらうことで、今後の展開についても詳細に検討することができた。 非平衡熱場の量子論の拡張については、北殿義雄研究員(中央研究院、台湾)に広島大学を訪問してもらった際に持ち込まれた新しいアイデアを出発点に、平衡系から大きくずれた古典解周りでの場の理論構築という新たな拡張を行うことができた。本研究で取り扱ったのは簡単なスカラー場の模型であり、ゲージ相互作用の導入、具体的な物理現象への適用といった課題が残っている。 当初予定していた相対論的非平衡TFDに基づく解析と拡張については、今後の課題として残っているが、より独創的な理論の拡張の足がかりを得ることができており、研究計画達成度としては、おおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
27年度の研究では課題として残してしまった、エネルギースケールに関する極限を外したより一般的な場合における複合スカラー場の理論によるインフレーションの解析、より現実的な模型での平衡系から大きくずれた古典解周りでの場の理論構築を、早急に進める計画である。 並行して、当初の研究実施計画で予定していた、実験、観測の進展に合わせたヒグス・トップ系、クォーク・グルオン系、インフレーション期の宇宙物理に注目した、素粒子模型の解析を進める。インフレーション期の物理については、S.D.Odintsov教授(ICE、スペイン)の研究グループを訪問し、宇宙背景輻射の揺らぎだけでなく、複合スカラー場の崩壊過程と再加熱期の理論の振る舞い等について解析を進めていき、より現実的な模型の構築を目指す計画である。クォーク・グルオン系については、幸山浩章研究員(中原大、台湾)を訪問し、3フレーバー南部、ヨナ・ラシニオ模型における温度、密度の効果と正則化依存性の詳細な解析を系統的に進め、有効模型適用の基礎を構築する計画である。また、磁場の効果が注目を集めており、従来の研究で得られている強い磁場の効果を応用することで、自発的対称性の破れに伴う新しい高エネルギー臨界現象を探っていく計画である。 幅広い模型での応用の可能性を探っていくため、名古屋大学の野尻伸一教授他、国内の研究グループと積極的に情報交換を行い、最新の成果を反映した研究を実施する。なお、得られた結果については広い分野の学会、研究会、および論文で発表していく。さらに、非平衡系を含む熱場の量子論とその応用に関連する研究会を企画、実施し、他分野での関連研究の状況も意識し、さらなる進展の方向を探っている計画である。
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