時空10次元の超弦理論に基づく模型の余分な6次元空間は現在の実験で観測できない程度に有限体積でかつ小さくなっていなければならず(6次元空間は「コンパクト化」されていなければならない)、さらにその大きさと形は時間変化せずに安定でなければならない(「コンパクト空間の安定化」)。その安定性を超対称性のないDブレーンの配位とそれらの間に働く引力や斥力の釣り合いによって達成する機構を提案した。 超弦理論におけるDブレーンの配位の変化によってゲージ対称性の自発的破れが起こる。現実の世界の電弱ゲージ対称性を表現するためにはDブレーンが「消える」ことに相当する物理が必要であり、それを余分な6次元空間が持つ離散対称性によるDブレーンの同一視によって実現する機構を提案した。 超弦理論に基づく模型の中で特に超対称性が "Brane Supersymmetry Breaking" によって破れた模型において、宇宙のインフレーションの始まりの現象について予言を行った。そして、宇宙背景輻射のゆらぎの大角度成分が標準的な宇宙模型による予想からずれる可能性を指摘した。さらに、宇宙観測の専門家(PLANCK 実験グループのメンバー)と共に、宇宙背景輻射のゆらぎの大角度成分が標準的な宇宙模型による予想よりも統計学的に有意に少ないことを明らかにした。これが真実であるならば、我々は宇宙のインフレーションの始まりを観測していることになり、宇宙の非常に初期の現象やそれを支配している法則を知る機会が与えられていることになる。 超弦理論の有効理論としても考えることのできるゲージ・ヒッグス統一模型に加速器実験から制限を与える研究を行った。また、古典的にスケール不変な物理系において強結合相互作用によってスカラー場に負の2乗質量が生成されて電弱ゲージ対称性が破れる機構を提案した。
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