研究課題/領域番号 |
26400255
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
清 裕一郎 順天堂大学, 医学部, 准教授 (60571338)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | トップ・クォーク対生成 |
研究実績の概要 |
今年度の研究実績としては、ミュンヘン工科大学(TUM)のグループと共同でレプトン・コライダーにおけるトップ・クォーク対生成を計算するコンピューター・プログラム(QQbar_threshold)を作成し一般公開したことがあげられる。QQbar_thresholdはC++で書かれたプログラムで、ILCの実験家や重いクォーク対生成に興味がある研究者が誰でも使えるように一般公開されている。今後同じような研究を推進する者にとっても有用なツールであり、リニアコライダーにおけるトップ・クォーク生成のシミュレーション・スタディーには欠かせないものである。QQbar_thresholdのプログラム中で使われているループ計算のテクノロジーについての解説やユーザーのためのマニュアルとして、ミュンヘン工科大学の共同研究者達と論文を執筆し査読付きジャーナルに掲載された。
また、QQbar_thresholdを使ったシミュレーション・スタディーを行い、トップ・クォーク対生成におけるヒッグス粒子との相互作用による湯川結合定数の測定の可能性について検討した結果、様々な非共鳴型(non-resonant)のファインマン・ダイアグラムの寄与がトップ生成断面積の形状(エネルギー依存性)にかなり効いてくることが分かった。また、トップ・クォークの崩壊幅と関係して電弱相互作用の効果も精査する必要があることが分かった。これらの知見により、閾値付近でのトップ・クォーク対生成断面積の形状から湯川結合定数を引き出すことは可能であろうが、その精密測定のためには、これまではあまり重要視されてこなかった電弱相互作用や非共鳴型の量子補正についてもシステマティックに計算する必要があることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで様々なグループによってなされてきた閾値付近でのトップ・クォーク対生成に関する量子補正の計算を統合して、コンピューター・プログラムQQbar_thresholdとして一般公開することができたのは非常に大きな成果である。このプログラムには現在知られている様々な量子補正をシステマティックに取り入れるための機能が備わっている。また、今後計算結果がでてくるであろう量子補正に関しても、分類がなされており、それらの結果を誰でもQQbar_thresholdに簡単に取り込むことが可能である。QQbar_thresholdは、計算スピートも考慮してC++によって書かれているために非常に高速で計算が実行される。よって、今後の研究では厄介なプログラミングをする必要もなく、様々な量子補正の結果を逐一QQbar_thresholdに取り込んでゆけば継続的に研究を進展させることができる。今後は我々が開発したプログラムを使って、実験家の手によって測定装置の特性などを取り込んだより現実的なシミュレーション・スタディーが実施されることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の推進過程で、トップ・クォーク質量から湯川結合定数を引き出すためには、QCD結合定数を精密に決定しておくことが重要であることが認識されてきた。現在QCD結合定数は数パーセントで知られているが、トップ・質量の精密測定の実験データを有効に活用するためにはQCD結合定数の精度が1%になったとしても十分ではない。量子色力学(QCD)によるハドロンの不定性などを考えると、QCD結合定数をこのような高精度で決定するためには、格子QCDによる数値実験と摂動QCDの高次補正の計算を両立させた物理量を測定することが有力視されている。
本研究の最終年度においては、トップ質量から湯川結合定数を引き出すためのQCD結合定数の精密測定という課題について取り組みたい。扱う物理量は格子QCDによるウィルソン・ループ計算から引き出されるQCDポテンシャルを考える。この物理量は、格子QCDによる非摂動的数値計算が可能であり、一方で摂動論的な計算でも3ループという高次補正まで知られているために、前述のように高精度でQCD結合定数を決定することが可能であろうと期待される。残り1年という短い期間で、最終的な目標まで達成することは難しいが、少なくとも、最初の成果として格子QCDによって計算されたウィルソン・ループからQCD結合定数を数パーセントの精度で引き出すことが可能であることを示したい。格子QCDによる数値計算は高エネルギー研究所の格子QCDグループの協力のもとに粗終了しているので、今年度は数値計算データの統計処理や摂動QCDの収束性の改善などを行い、QCDスケールを数パーセントの精度で決定したい。この精度は、QCD結合定数に関しては1%程度の誤差に対応する。
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次年度使用額が生じた理由 |
大学における教育や様々な委員会活動によって、当初予定していたように研究発表のための出張予定を組むことができず、研究費をフルに使用することができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度は、大きな研究成果があったにも関わらず、国際会議等で発表して研究成果をアピールすることが十分にはできなかった。今年度は本研究によって得られた成果を多くの国際会議等で発表して強くアピールしたい。研究成果を多くの研究者に知ってもらうことで、本研究で開発したコンピューター・コードQQbar_thresholdを多くの研究者に使ってもらう機会も増えると期待される。
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