研究課題/領域番号 |
26400257
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
酒井 一博 明治学院大学, 法学部, 准教授 (10439242)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 2次元Yang-Mills理論 / リサージェンス / 位相的弦理論 |
研究実績の概要 |
曲がった背景時空におけるM理論を一般的に解析することは大変難しいが、特別なクラスの背景においては、一部解析ができる場合がある。中でも重要なものとして、複素3次元(実6次元)のカラビ・ヤウ多様体を含む時空が挙げられる。このような時空においては、M理論の基本構成要素であるM2ブレーンがカラビ・ヤウ多様体の2サイクルに巻きついたものが、BPS状態(超対称性を部分的に保つ状態)となり、低エネルギーでの励起を担う。これらのBPS状態の分配関数は、カラビ・ヤウ多様体上の位相的弦理論の分配関数として計算することができる。 位相的弦理論の分配関数は、多くの場合に弦結合定数による摂動展開の形で計算される。一方で、場の理論においては、インスタントンの寄与に代表されるような、非摂動効果がよく知られている。M理論や弦理論が低エネルギーで場の理論を再現する理論である以上、M理論においても非摂動効果は確実に存在する。 今年度は、これらのM理論や弦理論における非摂動効果を、近年着目されているリサージェンス理論を用いて調べる研究を行った。リサージェンス構造は、量子力学や微分方程式の理論において古くから知られており、摂動級数の発散の漸近的振る舞いと非摂動補正との間に関係がつく現象を指す。カラビ・ヤウ多様体上の位相的弦理論については、各種数における分配関数が単なる数となるような簡単な場合においては、リサージェンス理論を適用する先行研究があったが、より本格的な、分配関数が関数となる場合においては、研究が皆無であった。本研究では解析の対象として、分配関数が2次元ヤン・ミルズ理論の分配関数を表すよく知られた例、すなわち分配関数がモジュライパラメータの関数となる場合を選び、非摂動補正項の形を全次数で算出した。特に非摂動補正の最も主要な項について、リサージェンス理論に基づき、精密な数値計算による検証を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、M2ブレーン上の理論のBPS解を足がかりとしてM5ブレーン上のBPS状態のスペクトルを解析する予定であったが、その後2013年から2014年にかけて、6次元の場の理論の研究が予想以上の進展をみせたため、本研究でも計画を修正して、超対称性を利用し直接M5ブレーン上の6次元理論を解析する方法に切り替えた。その結果、昨年度までに一定の成果が得られ、研究が一段落したため、今年度は新たな試みとして、曲がった背景時空上でのM理論の解析を行い、新たな成果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
リサージェンス構造を用いて弦理論やM理論を調べる試みは、近年始まったばかりであり、一層の進展の余地があると考えられる。今後は、今年度の研究の副産物として得られた、2次元ヤン・ミルズ理論の漸化式や正則アノマリー方程式のさらなる究明と応用を進める一方で、対象となるカラビ・ヤウ多様体の範囲を拡張して、リサージェンスによる非摂動効果の解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
大学学内業務のスケジュールの関係で、予定していた研究会への参加を一部見送らざるを得なかった。 科研費による旅費を用いて、今年度も国内外の研究会に積極的に参加し、最新情報の収集に努め、当該研究の遂行に役立てる。
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