研究実績の概要 |
重力理論の量子化は素粒子理論における大きな目標のひとつである。特に、量子重力理論、あるいはこれを包含する弦理論における非摂動効果の解析は、近年活発に研究がなされている。今年度は、ここ数年再び脚光を浴びているJackiw-Teitelboim重力理論(以下、JT重力)に着目し、非摂動効果まで含めた厳密な分配関数を、可積分構造およびリサージェンス理論を用いて調べる研究を行った。JT重力は2次元の重力理論であり、最も単純かつ非自明な量子重力理論として位置づけられる。また4次元の電荷を持ったブラックホールの解析にも用いられる。 2019年3月のSaad-Shenker-Stanfordによる行列模型に基づくJT重力の記述を活用して、本研究では、JT重力の分配関数が行列模型における巨視的ループ演算子の期待値として表されることを導いた。この表示に基づき我々は、JT重力が、昔から知られている一般2次元位相的重力理論の特殊な設定として実現されることを示した。Witten, Kontzevichにより、2次元位相的重力理論の相関関数の生成母関数は、Korteweg-de Vries(KdV)可積分階層のtau関数であることが知られている。これを利用して、我々は境界をもつRimmann面上のJT重力の分配関数を、KdV可積分方程式に基づき高次の種数まで効率よく計算する手法を構成した。さらにこれとは別の切り口として、KdV方程式に基づくJT重力の低温展開の手法も構成し、上述の種数展開の結果にリサージェンス理論を適用して得られる分配関数の漸近的振る舞いが、低温展開の結果と一致することも確かめた。 また上述の研究とは別に、20年にわたる謎であったトーラス上の2次元Yang-Mills理論の正則アノマリーにまつわるpuzzleを解消し、正しい分配関数の反正則変形の方法と正則アノマリー方程式を提唱した。
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