研究課題/領域番号 |
26400261
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
出渕 卓 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器研究センター, グループリーダー (60324068)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 格子QCD / ハドロン物理 / ミューオン異常磁気能率 / 核子の電気双極子 / 誤差縮減法 / τレプトン崩壊 / 小林・益川理論 |
研究実績の概要 |
未知の物理法則の発見を目指して、現在新しい実験がフェルミ研究所とJ-PARC で計画・実行されている、ミューオンの異常磁気能率のハドロン寄与の計算に関しての研究を行った。ハドロン真空偏極ダイアグラムについては、アップ、ダウン、ストレンジクォークからの寄与を自然界に対応するクォーク質量に関して行った。クォーク伝搬関数の固有ベクトルを用い、All Mode Averaging (AMA) を多段的に用いることによって、オメガ中間子等に対応する非連結クォークダイアグラムからの寄与をもとめることに、はじめて成功した。
ハドロン光光散乱ダイアグラムについても同じ正しいクォーク質量について、クォーク連結ダイアグラムに加えて、非連結クォークダイアグラムの最も重要な部分( フレーバー SU(3) 展開の主要項)についての結果を得た。誤差縮減法に加えて様々な工夫を取り入れて出来た初めての結果である。主要な系統誤差源と考えられる有限体積効果については、光子とレプトン部分のみを無限体積の場合に計算して、有限体積で計算したハドロン部分と掛け合わせる方法により、有限体積誤差の減少を試みた。
物質優勢宇宙に関わる陽子や中性子の電気双極子能率について、長年に渡って見逃されていたCP対称性を破った場合の、核子の形状因子の理論形式の不備を見つけ、正しい電気双極子能率を求める式を与え、数値計算によって実証した。この補正の結果、格子QCDからの電気双極子能率の予言は既存の結果に比べ有意に小さな値となる。未知のCP対称性の破れの起源として、真空確度 θの他にクォーク自体が持つ電気双極子の場合についても実行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミューオン異常磁気能率の進捗は、予定通り進み、自然界に対応するクォーク質量での計算とはじめてクォーク非連結ダイアグラムを取り入れることができ、論文の出版も行った。
ミューオンのハドロン真空偏極の研究に関連して、τレプトンのハドロンへの包括的崩壊に関する格子QCDと分散関係を用いた新たな解析方法を考案し、小林・益川行列 Vus についての長年の問題であったユニタリティの破れの兆候についての計算も行った。新しい方法は ハドロン寄与の理論誤差を小さくし、ユニタリティの破れの兆候は無くなる方向の結果を得た。この解析は、複数の実験グループからのデータをまとめる必要もあり、またアイソスピンの破れや電磁気効果を理論的に補正するのに思いのほか時間がかかっているが、近く論文を投稿できる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
ミューオン異常磁気能率の進捗は、自然界に対応するクォーク質量での計算とはじめてクォーク非連結ダイアグラムを取り入れることができた。2017年に開始されるフェルミ研究所の新たな実験に間に合うように、さらなる誤差の縮減が必要である。目的とする精度に到達するために、離散誤差や有限体積効果に加え、アップ、ダウンクォークの質量差や、クォークの持つ電荷の効果からくる系統誤差も無視できないので現在の真空偏極に取り入れている。光光散乱については、現象論的なモデル計算との比較、特に 中性パイオンが長距離で支配的になっているかどうかを調べることを予定している。
核子の電気双極子について、最終的な結果にはクォーク自体の電気双極子を表す演算子の繰り込みを行う必要があり、混合する演算子の数が10以上と大きなものであるため、新たな工夫を考案しつつある。真空確度θについては、本研究で発見した補正の結果、中心値が小さくなる方に動くため、統計的に有意な結果を得るためには、さらに統計誤差を縮減することが重要となるため、これについても新たな方法を試すことにしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
ワークショップの開催を予定していましたが、他の関係するワークショップと重なり出席できない参加希望者が多かったので次年度に開催したいです。
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次年度使用額の使用計画 |
ワークショップ参加者を含めた、旅費、宿泊費の補助。
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