格子QCDは量子場の理論の経路積分を計算機上でモンテカルロ積分として実行する方法でありハドロン物理の定量的な計算を行うことが出来る。限られた計算量の範囲で、モンテカルロ積分の統計誤差を小さくすることは結果の物理予言の正確さにとって重要であるが、本研究では新たに考案した誤差縮減方法 All Mode Averaging を、いくつかの重要な物理量について応用することにより、今までの方法では非常に困難あるいは不可能であった精度を達成した。 現在の素粒子標準模型の成否を確かめ、標準模型を越えたら新しい素粒子や物理法則の発見を目指して具体的な物理量として、ミューレプトンの異常磁気能率(ハドロン真空偏極寄与、ハドロン光光散乱寄与)、CP対称性を破る核子の電気双極子能率(CP対称性の起源として真空角度θとクォークの量子電気色双極子の双方を起源とした場合)、陽子崩壊の遷移行列要素などについての計算を行った。 多くの計算は、自然界のアップ・ダウンクォークと同じ軽いクォーク質量について行っているが、本研究では旧来に比べ一桁から二桁程度の計算コストの縮減を行う事が出来た。ミューオンの異常磁気能率に関しては、現在までの研究で標準模型とのずれが3σ以上の実験結果が出ており、米国のフェルミ研究所と日本のJ-PARCで現在より四倍程度精度の高い実験が進行中であるため、緊急に高精度の計算が必要だが、本研究ではそのための重要なステップとなった。陽子・中性子の電気双極子能率はこの宇宙に何故反物質があまり存在しないのかという問いに関係した計算であるが、今まで使われていた計算方法(電気双極子とCP対称性を破った核子のF3 形状因子の関係) に瑕疵があったことを見つけ、正しい計算方法を指摘した。τレプトンの多数のハドロンへの包括的な崩壊の新しい解析方法を提唱し、今までの摂動論による解析の理論誤差を取り除いた。
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