研究課題
現在宇宙論の重要な課題は暗黒物質に基づく構造形成の詳細な理解と宇宙の加速膨張を支配している暗黒エネルギーの解明である。暗黒物質と暗黒エネルギーの研究にはそれらの重力的な影響を直接調べることができる重力レンズ観測が非常に重要であり、本研究のテーマでもある。今年度は宇宙の物質分布が遠方の天体に及ぼす重力レンズ効果について以下の研究を行った。ある種の超新星の見かけの明るさと赤方偏移の関係は宇宙の加速膨張を検証する重要な観測量であるが、宇宙の非一様性によって赤方偏移と絶対的な明るさが同じであってもみかけの明るさは重力レンズ効果によって影響を受け同じではない。この影響を補正しなければ真の加速膨張の詳細な情報を得ることができず、またこの影響自体が宇宙の構造形成の重要な影響を持っている。この影響を詳細に調べるため、すでに得られている膨張宇宙における非線形重力的な密度揺らぎの成長とある臨界密度を超えた時に天体が形成されて、その背後にある超新星が隠される影響を考慮して、超新星のみかけの明るさと赤方偏移の関係を理論的に導いた。また非一様な物質分布が及ぼす影響として宇宙シアと呼ばれる背景銀河の微小な組織的歪みがあり、この観測から暗黒エネルギーの観測が日本、アメリカヨーロッパで進められているが、その観測の基礎は背景銀河の形状正確な測定であるがは大気揺らぎ、工学系の不完全さなど様々影響によって誤差が起こり非常に困難であることが分かっている。我々は新たな形状測定の誤差の推定方法を提案し、現在解析中である。暗黒物質が構造形成に及ぼす役割について研究する目的で近傍銀河団中の暗黒物質分布の観測をすばる望遠鏡を用いてしているが、その観測データの解析中である。
2: おおむね順調に進展している
暗黒エネルギーの観測に重要な新星のみかけの明るさと赤方偏移関係について物質分布の非一様性を考慮した研究を行い、論文を執筆し受理され出版された。また背景銀河の形状測定の誤差の評価方法について新たな方法を提案し論文を書き受理され掲載された。2015年が一般相対性理論が提唱されてから100年になることを記念した欧文の書籍で重力レンズのレビューを依頼され執筆した。構造形成の理解に不可欠な近傍銀河団内の暗黒物質分布を弱い重力レンジによて観測するすばる望遠鏡のプロポーザルが採択され順調に観測が行われた。
これまで行った研究は冷たい暗黒物質に基づく非線形成長と構造形成によって作られた物質分布の非一様性を考えたものであるが、それ以外の暗黒物質による構造形成の場合も同様の効果があるので、それを考慮することで超新星のみかけの明るさと赤方偏移の関係から暗黒物質の性質を制限できる可能性を考える。我々が新たに提案した弱い重力レンズ解析における新たな銀河の形状測定法をさらに発展させ実データに適用できるようにする。これまで採択されたすばる望遠鏡による近傍銀河団の弱い重力レンズによる暗黒物質分布の観測データを解析する。
計画していた謝金が他の経費で賄うことができたため次年度使用額が生じた。
旅費の一部、あるいは謝金として使用する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (3件) 図書 (1件)
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