研究課題/領域番号 |
26400269
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
板垣 直之 京都大学, 基礎物理学研究所, 准教授 (70322659)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 中性子過剰核 / シェル模型 / クラスター模型 / 相対論的平均場模型 |
研究実績の概要 |
原子核は通常、jj-couplingシェル模型に代表されるように、陽子や中性子が独立に一体ポテンシャル中を運動しているが、4He原子核(alpha粒子) は特別に結合の強い原子核であり、軽い核では4 核子相関(alphaクラスター相関) は重要な役割を果たす。これまで、シェル模型とクラスター模型の競合を分析し、原子核系では非常に強いことが知られるスピン・軌道力と呼ばれる非中心力が、alphaクラスター相関を壊し核子の独立運動を促進する役割を果たすことを議論してきた。 現在までに、波動関数内に、クラスター間の距離R、クラスターの崩れLambdaという2 つのパラメータを導入することで、クラスター状態からjj-couplingシェル模型波動関数への転移を記述可能な模型を提案した。これまではこの模型のかなり軽い原子核への適用に限定されてきたが、今年度は、原子核の魔法数が3次元調和振動子のそれからずれるN=28, N=50などに対応した56Niや100Snの基底配位や、そこから核子が励起した状態が、同じ模型で記述可能であることがわかった。これによって、クラスター模型から出発して、シェル模型への移り変わりを議論するという当初の予定はほぼ達成しつつある。また、クラスター・シェルの競合とE0遷移確率の関係を16O、20Neを中心に議論した。 さらに、いくつかのクラスターが幾何学的な配位を持った構造を安定化させることが可能である。それには、系を中性子過剰核へと拡張し、さらに系に回転を与えることが有効である。相対論的平均場模型であるCovariant Density Functional Theoryを用い、C 同位体を例に、これら2つの安定条件、すなわち、高いアイソスピンと高い回転を同時に取り入れた。上で述べた安定化の2つのメカニズムにさらに相乗効果があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、クラスター構造とシェル構造を含めた原子核構造の統一的記述を目指した模型の構築は着実に進展している。この模型が幅広い原子核へと適用可能なことが既に示されている。現在この方法論を示した論文を投稿中であり、レフェリーとのやりとりを行っている段階である。 この模型を用いて、現実の実験観測量との比較を行っている。原子核の励起状態におけるクラスター構造の存在の実験的根拠として、最近基底状態からのアイソスカラー単極子遷移確率が注目を集めている。そのため、今の模型を用いて、実験で観測される遷移確率を16Oや20Neなどを例に計算し、シェル状態とクラスター状態の混合が実験値の説明に必要であることを示した。これらの結果についてはいくつかの会議で報告の後、論文を投稿したところである。 また、観測量との比較という意味で、今の模型で得られた原子核構造の波動関数を用いて、原子核反応計算を行い、観測される散乱断面積と比較する研究も順調に進行している。この結果については国内学会では報告済であるが、今年度の大きな国際会議において報告する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、これまでに得られた成果を論文として出版することを大きな目標とする。既に十分な成果は得られており、論文も投稿中のものがいくつかあるが、これらを形あるものとして完成させることが一番の使命である。 理論の発展としては、用いる相互作用をより良いものにしていくことが挙げられる。核子と核子の散乱実験から決められる本来の核力(現実的核力)は、中心部分に大きな斥力コアを持つ大変扱いの難しいものであり、これまでの多くの核構造研究ではより扱いやすい有効核力が用いられてきた。しかしながら、現実的核力を用いた核構造研究が世界各地で進行している。最近ではChiral Effective Field Theoryを用いた現実的核力が、より扱いやすい座標表示で提案されている。まずはこれをいまの模型波動関数と組み合わせることを考える。逆に、より現象論的ではあるが、原子核系で極めて重要と考えられる3体力を取り入れる計算も同時に進行させる。 研究の新しい展開としては、今のシェル模型とクラスター模型の融合した模型を用い、これまで現象としては長年知られておりながら、微視的計算の難しかったα崩壊について説明を目指す。原子核の表面ではα粒子が生成されていると考えられるが、内側ではα粒子は独立な4粒子へと分解しているはずである。これらを正しく記述することによってα崩壊の微視的・定量的な理解を目指す。
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