研究課題/領域番号 |
26400271
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 敬 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任研究員 (80374891)
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研究分担者 |
梅田 秀之 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60447357)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 大質量星 / 超新星 / 元素の起源 / ニュートリノ |
研究実績の概要 |
我々は大質量星のSi燃焼から重力崩壊に至るまでに電子陽電子対消滅によって放出されるニュートリノのスペクトルの時間変化を求めた.そして,ベテルギウスに相当する200pcの距離で12-20太陽質量の星が超新星爆発を起こす直前の数日間における超新星前兆ニュートリノの観測可能性について調べた.KamLANDや計画中のJUNOなど液体シンチレーション型のエネルギーしきい値が低いニュートリノ検出器を用いると超新星爆発の前日から数時間前にニュートリノ観測による超新星爆発の予測が可能なことがわかった.また,JUNOやHyper-Kamiokandeによるニュートリノイベントの時間進化の観測から超新星爆発直前の星の内部構造進化を推測できることがわかった. 我々は中性子星連星の親星となりうる暗いIc型超新星爆発(ultra-stripped supernova)を起こす軽いCO星について,その後期進化とニュートリノ輸送を考慮した2次元超新星爆発を調べた.そして,超新星爆発時における元素合成について調べた.超新星爆発では0.1太陽質量程度のejectaが放出され,普通の超新星よりも少ない放射性核種56Niが含まれた.また,0.01太陽質量程度の1st peakまでのr-過程元素が放出された.さらにこれまで起源が十分わかっていない48Caや50Tiも生成されることがわかった. 我々はまたネオン燃焼以降に電子陽電子対生成による脈動不安定を起こす巨大質量星の進化とそれに伴う短時間での質量放出について調べた.そして,間欠的な質量放出や超新星爆発による突発的な増光現象の観測可能性について調べた.その結果,放出された星周物質同士の衝突により絶対等級で-16から-20等程度の突発天体として観測されうることがわかった.また,超新星ejectaと星周物質との衝突ではより明るい突発天体になりうる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
超新星前兆ニュートリノについてはひと通りの計算と解析が終了し,研究成果を国際会議と会議録で発表した.論文作成過程で何度かニュートリノ観測装置によるニュートリノイベントの見積もる方法を改良したため論文作成に当初の予定より時間がかかっている.論文は完成に近く,近日中に論文を投稿する予定である. 軽いCO星の進化に関しては,本年度ひと通りの計算を行い,海外の研究機関で研究発表を行った時にいくつかの意見をいただき,それを参考にして進化の再計算を行った.その過程でコードの改良も行い,軽いCO星の中で鉄コアを作ることができる質量範囲が分かった.一方,超新星爆発についての研究は論文として発表された.そして,共同研究者間での議論の結果,軽いCO星の最期での超新星における爆発的元素合成の研究を進めることになった.これについてはひと通りの計算が終了し,現在は論文を作成中である.これに伴い,CO星の進化に関する論文の作成は元素合成の論文が完成後に行われることになった. 大質量星の進化の系統的な計算については,大質量星の観測をよく再現するように星の進化計算に関するいくつかのパラメータを調節した.一方,超新星の親星を系統的に用意する上で,親星の組成分布を決めることが重要となる.しかし,大質量星の最終進化における対流の扱いの不定性と超新星爆発で放出される物質の元素組成との関係をまだ十分に解明できていない.そのため,超新星の親星を系統的に用意する前にこの問題を解決する必要があると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
超新星前兆ニュートリノに関する研究はほぼ一段落しており,現在作成している論文を完成させて投稿する.続いてより広い質量範囲の星についてもニュートリノ放出の時間進化について調べる.それと同時に星の進化の最終段階の不定性が前兆ニュートリノの時間進化に与える影響について調べる.また,電子捕獲反応によるニュートリノ放出を考慮して超新星前兆ニュートリノの計画中のニュートリノ観測装置による観測可能性について調べる予定である. 軽いCO星の進化の研究については,CO星が進化した暗いIc型超新星における爆発的元素合成に関する論文の作成を引き続き行う.この論文の作成後,続いて軽いCO星の進化に関する論文を作成する.CO星の進化に関する論文をまとめるのに合わせて,大質量星の進化と最終的な構造のデータベースを公開するためのwebサーバを構築する.そして,超新星爆発直前のCO星の構造をデータベースとして公開する. 大質量星の進化の系統的な計算については,超新星爆発直前の組成分布を求めるため,最終進化における対流の扱いの不定性と超新星爆発直前の星の元素組成分布との関係を明らかにする.そして,得られた結果を参考に大質量星の後期進化におけるモデルを求める.その後,広い初期質量,初期金属量の範囲で大質量星の進化を重力崩壊直前または電子陽電子対生成型超新星に至るまで系統的に計算する.そして,得られた大質量星の進化過程と最終的な構造をデータベースとして公開する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の途中で研究代表者が京都大学から研究分担者が所属する東京大学へ異動した.それに伴いRAIDシステムを含めたハードディスクを所属研究室で用いているものを使用可能になった.また,異動に伴い国内旅費をいくらか抑えられることになった.論文の投稿が遅れていることと本年度に投稿した論文が投稿料のかからない雑誌に投稿されたため,本年度の論文投稿料が抑えられた.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は研究の進捗状況や研究成果を発表し,国内外の研究者と議論するため複数の国際会議および国内の研究会に参加する予定である.そのため,研究代表者の国内旅費,海外旅費を使用する.
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