研究課題/領域番号 |
26400273
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
保坂 淳 大阪大学, 核物理研究センター, 教授 (10259872)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | チャームバリオン / 構造 / 生成と崩壊反応 / カイラル動力学 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、重いクォークバリオンの生成率を予測し、将来のJ-PARCにおける実験研究計画に資するとともに、生成と同時に様々な崩壊率から構造の情報を引き出すことにある。反応研究と構造研究の相乗的な研究が重要との観点から今年度は以下の成果を得た。(1)有効理論による生成反応率、(2)クォーク模型による質量計算、(3)クォーク模型による崩壊率の計算、(4)K中間子と核子の相互作用。 (1)では昨年度の予備研究を博士課程の学生とともに発展させ、広い範囲のエネルギー領域にわたり適用可能な反応模型を完成させるに至った。この研究で得られた反応公式は他の反応にも応用できることから、今後の研究進展につながることが大いに期待できることとなった。(2)は東工大のグループとの共同研究として推進し、結果を学術論文に発表した。(3)に関しては、奈良女子大学と東工大との共同研究で進め、理論の定式化を行い結果をほぼ得るに至った。この研究によって、重いクォークバリオン系が軽いクォークのカイラル動力学をより鮮明に映し出すこと、バリオンを励起する内部自由度の識別に極めて有効であること、さらに、未知の量子数の決定にも有効であることなど、期待以上の成果につながった。(4)では、スキルム模型に基づいた新しい手法を提案することで、K中間子と核子の相互作用に関する非常に興味深い結果を得つつある。今後の発展が大いに期待できる。 以上の研究のうち(1)ー(3)は実験研究者との密接な議論のもと達成されたもので、今後J-PARCの研究計画が進むにつれて、より密接な連携を図っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上述4項目について個々に記述する。 (1)一昨年度実施したRegge模型による予備研究を、博士課程の学生とともに本格的に進めた。そのために有効ラグランジアンの特徴をRegge振幅に組み込み、閾近傍から高エネルギー領域まで一貫した反応模型として複合Regge模型を作った。理論をハイペロン生成反応で検証し、チャーム領域に拡張した。得られた結果はPhysical Review誌に掲載された。 (2)クォーク模型により重いクォークを含むバリオン励起状態の質量を系統的に調べた。重いクォークの質量を連続的に変えることによって、波動関数の推移を追いその特徴を明確に示すことができた。得られた結果はPhysical Review誌に発表された。 (3)パイオン放出による励起状態の崩壊に着手し主要な結果を得るに至った。いくつかの場合に極めて運動量の低いパイオン放出を伴うことから、チャームバリオン系がパイオンの非線形カイラル動力学を検証する良い事例になっていることを示した。このような遅いπ中間子の運動を伴う反応は他では例がなく、本結果を示したことは極めて重要なものと考えている。その相互作用をもとに、様々な崩壊を系統的に計算した。その結果、崩壊確率から構造のみならず、スピントパリティーのような基本的な性質の情報を引き出せる可能性を強く示唆した。また重いクォークバリオンに特徴的な選択則を発見し、構造解明に有効なことを示した。これらの研究結果の一部は現在投稿論文として執筆中。 (4)スキルム模型におけるCallanとKlebanovによる有名な方法とは異なる手法を提案し、物理的なK中間子と核子の相互作用を求めた。Λ(1405)のような弱く束縛するK中間子系の解析ににより適した方法として、今後の応用を強く期待している。この研究は修士2年の学生とともに実施し、結果は現在投稿論文に執筆中。
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今後の研究の推進方策 |
上記のうち3つの課題について発展的な研究をおこなう。 (1) 複合Regge模型を他の反応課程に応用する。最近観測が報告されたペンタクォークPcの生成にも応用する。これまではJ-PARC実験への対応を踏まえパイオンビームによる反応を調べてきたが、今後は光生成についても調べる。また、観測量としてスピン偏極量も調べていく。この研究は、昨年度学位を取得し現在韓国APCTPの研究員であるSangho Kim氏と、インハ大学のHyun-Chul Kim氏との共同研究で進める。生成反応に関しては、重いクォークを2個含むバリオンの生成反応に関連し、Ξハイペロンの生成反応の研究を開始する。 (3)今年度の主要な研究課題に位置付ける。1パイオン放出による2体崩壊の他、今後は2パイオン放出による3体崩壊、D中間子生成崩壊などを取り込み、現実の崩壊チャンネルを全て取り込む。また波動関数として、配位混合を考慮した計算を進める。この研究では奈良女子大学と東工大との共同研究を継続するとともに、大学院生1名を配置する。 (4)これまでK中間子単一チャンネルの束縛状態を調べる理論の枠組みを確立した。まず今回提案した新たな手法を連続状態に拡張し、散乱問題をい、位相差を計算しデータと比較する。現実のΛ(1405)の記述に向け、πΣへの崩壊チャンネルを取り込みFeschbac共鳴を作る。また長期的な展望として、チャームを含む系への拡張、および模型の精度を高めるためベクトル中間子の導入を試みる。 以上の研究推進にあたり実験研究者との連携に加え、格子QCDとの連携を強化する。模型に含まれるパラメータの基盤をQCDによって確立するとともに、格子QCDによる行列要素の直接計算との比較によって、従来の現象論的な手法にQCDに立脚した基盤を整備しハドロン物理学の進展を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の研究は順調に進めることができた。研究費は自らが受けた招待講演などの出張旅費、および、国際会議主催で招待した一部の参加者の滞在費などに使用した。全体として妥当な執行状況と考えている
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の予算に組み込み、適正に執行する予定。
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