研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、重いクォークバリオンの生成率を予測し、生成と崩壊から構造の情報を引き出すことである。さらに実験研究との連携として、将来のJ-PARC、KEKにおける実験研究計画に資する。そのために以下の研究項目を実施した。(1)生成反応率の理論予言、(2)クォーク模型による分光、(3)崩壊率の理論研究、(4)K中間子と核子の相互作用。(1、2)に関しては昨年度までに成果を得て、今年度は(3、4)に関する成果を得た。 (3)チャームバリオンがパイオンを放出して崩壊する過程を系統的に調べ、構造と崩壊率の関係を明らかにした。パイオンは軽いu,dクォークに結合し、チャームバリオンの崩壊を引き起こす。このことをカイラルクォーク模型によって記述し、崩壊寿命のデータを再現した。この結果は陽子の弱崩壊の理論と首尾一貫し、ハドロンを構成する準粒子としての構成クォークやダイクォークの研究を発展させる基盤を確立した。またパイオンを2個連続的に放出する崩壊を記述し、実験で直接観測できない励起状態の情報を仮想状態を利用し抽出する方法を提案した。今後は角度相関の理論を定式化し、量子数などの基本的な情報を抜き出すことをめざす。以上は国内共同研究によって実施した。その他国際共同研究として、チャームハドロンの生成反応、QCD和則による分光と崩壊の研究を行った。 (4)K中間子と核子の相互作用は、近年話題になっているΛ(1405)粒子のK中間子と核子の分子共鳴構造を解明するための重要なインプットである。スキルム模型により核子を有限に広がるソリトンとし、K中間子と核子の相互作用を局所ポテンシャルとして得ることに成功した。この結果は世界初であり、今後は得られた相互作用を元に原子核系への応用や、重いクォーク系への拡張が期待できる。以上を国内共同研究として実施した。
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