研究課題/領域番号 |
26400280
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
前田 健吾 芝浦工業大学, 工学部, 准教授 (10390478)
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研究分担者 |
石橋 明浩 近畿大学, 理工学部, 准教授 (10469877)
飯塚 則裕 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40645462)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | AdS/CFT / ブラックホール / 剛性定理 / ブラックブレーン |
研究実績の概要 |
本年度は、当初の研究計画の一つに記載されているように、並進対称性を破るホログラフィックモデルとしてビアンキモデルに着目し、強相関量子多体系における超伝導現象の一つである永久電流の有無を明らかにした。ビアンキモデルは空間的に一様なモデルなので、従来の並進対称性のあるホログラフィックモデルと同様に、常微分方程式の解として解を構築することができる。強相関量子多体系での格子上での永久電流の存在は、対応するバルク時空において、並進対称性の破れた定常ブラックホール時空上での角運動量の存在と同等である。剛性定理の存在から、ブラックホールは回転ができないので、両者は一見矛盾しているように思える。しかしながら、本年度の研究で、剛性定理と矛盾せずに永久電流が存在するブラックホール解をビアンキモデルで構築した。さらに興味深いことに、境界上の場の理論におけるエネルギー・モーメンタムテンソルを計算してみると、超流動理論で良く扱われる二流体モデルと合致することがわかった。本研究結果は、Physical Review Letters という一流の雑誌にすでに掲載されており、また国際的な研究会やワークショップで広く発表されている。 さらに、一般相対論における剛性定理との関係や、並進対称性の破れたAdS時空上での回転するブラックホールの性質を一般的に調べるため、一般のビアンキタイプモデルについて、ブラックホールは回転できないとする定理の構築や、高々電磁場やディラトン場しか含まない系では、角運動量は持てないとするno go theoremを構築した。この研究結果はJHEPという雑誌にすでに掲載されている。 また、当初の計画通り、カリフォルニア大学サンタバーバラ校で一定期間ホロビッツ教授と議論を行い、フラックスブレーン中の高次元ブラックブレーン解の一般的性質についてまとめた研究成果を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画通り研究成果が学術雑誌に掲載されており、カリフォルニア大学サンタバーバラ校でも、ホロビッツ教授と一定の研究成果が出せたので、ほぼ計画通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画通り、AdS/CFT双対性を用いて、強相関量子多体系における乱流現象を解明していく。特に従来から知られている回転流体の軸方向に沿った不安定性を、流体近似で得られたバルクの摂動方程式を用いて解明していく。本研究は高度な数値計算を用いて行うため、この手の数値計算に慣れている国外の研究者に適宜アドバイスを頂きながら進めていく予定である。この研究によって、強相関量子多体系の乱流現象のみならず、高次元ブラックホールの非線形不安定性の理解が一層深まるものと期待している。 一方で、昨年度に実施したAdS時空における回転ブラックホール解に関する自然な拡張として、自発的対称性の破れによって自然に発生する対称性の少ない回転ブラックホール解の研究を行う予定である。AdS時空における回転ブラックホール解は、一般にsuperradiance不安定性を引き起こすことが知られており、その不安定性の結果、時空にただ一個のキリングベクトルを持つ対称性の悪い回転ブラックホール解が最終状態として現れることが予想されている。これを3次元のBTZブラックホール解を用いて実スカラー場によるsuperradiance不安定性を解析し、最終状態として現れることが予想される、ただ一個のキリングベクトルを持つ回転ブラックホール解を構築していく。この研究は、乱流による非線形不安定性と関連する研究であるため、まずはこの解析から始めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究分担者(飯塚)は昨年度末(2015年3月)にイタリア、ガリレオ-ガリレイ研究所(Galileo Galilei Institute)での国際研究会(Holographic Methods for Strongly Coupled Systems)に参加する予定であったが、一身上の都合により研究会参加を断念せざるを得なくなり、その旅費として予定していた約20万円分は基金として翌年に繰り越す事となった。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究課題では、AdS/CFT双対性の非線形物理現象の部分に焦点を当てた研究を行なう事を主な目的としている。一般相対論を使うAdS側では、これらは解析的に研究を行うのが一般に難しく、本研究分担者(飯塚)は研究代表者(前田)らと共同研究遂行中、しばしば難解な一般相対論のアインシュタイン方程式の解をパソコンで数値的に求めなくては行けない状況に遭遇する。そのような時、分担者(飯塚)のノートパソコンではマシンパワーが不足するが故に、研究の遂行を多少なりとも妨げるような事が昨年度起こっていた。よって繰り越した20万と本年度の分担金(15万円)の一部を適当な時期に新しいノートパソコン(約25万円程度)を購入するのに使う。残り(約10万円)は共同研究者との議論や主に国内の研究会参加の為の旅費として使う予定である。
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