研究課題/領域番号 |
26400281
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
井上 貴史 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (80407353)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ハイペロン相互作用 / ハイパー核 / 中性子星 / 超流動 / 格子QCD |
研究実績の概要 |
本研究課題は中性子星の核においてハイペロンの超流動が実現しているか否かを理論的に探る研究である。ハイペロン間の相互作用は実験的に未知なので、格子QCD数値計算を用いて決定した上で、その相互作用を使用する点が本研究課題の特色である。 本年度は核物質中におけるハイペロンの一体ポテンシャルの計算を行った。その理由は2つある。1つは、中性子星の核におけるハイペロンの混在比率すなわち密度がハイペロンの一体ポテンシャルによって決まるからである。もう1つは、超流動の有無を調べる際に必要なハイペロンの質量が、真空中の質量ではなく、フェルミ面近傍における有効質量であり、それが一体ポテンシャルから決まるからである。以上の理由から、格子QCD数値計算で決定した暫定的なハイペロン相互作用を用いて、ブルックナー・ハートリー・フォック計算を行い、ハイペロン一体ポテンシャルを求めた。 計算で得られた標準核密度におけるポテンシャルの深さとハイパー核実験の示唆とを比較すると、よく一致している事が判った。これは、強い相互作用の基礎理論であるQCDからストレンジ核物理を再現した歴史上初めての成功であり、課題実施者を大いに勇気づけるものである。この成功は本研究課題の重要な成果の1つである。従って、今年度はとても実りの有る年であった。中性子星への応用を見据えて、高密度核物質中におけるハイペロンの化学ポテンシャルも計算した。これらの成果を日本物理学会、国際会議、国内研究会等で口頭発表したところ、高い評価を受けた。今後は、この成功を足がかりにして、中性子星におけるハイペロン超流動の解明に挑戦したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画では本年度までに中性子星におけるハイペロン超流動の有無が確定していて、次年度からはそれを基にした中性子星の冷却の研究に取りかかる予定であった。しかし、ハイペロン超流動の本格的研究は次年度に持ち越されており、本研究課題の進行はやや遅れている。その原因は、ハイペロン相互作用を決定する為の格子QCD数値計算の進行が、京コンピューターの混雑などの理由で予定より遅れているからである。つまり、計算資源の確保の問題であり、本研究課題の推進に原理的な困難や障害は生じていない。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの研究で準備が整ったので、最終年度は、本研究課題の主目標である、中性子星におけるハイペロン超流動のQCDに基づく予想を遂行する。すなわち、ギャップ方程式をといて有限のギャップが存在するか調べる。その成果の応用として予定していた中性子星冷却速度への影響の研究は、進行の遅れの為、本研究課題の期間内に完了させる事は断念する。本研究課題では、途中段階の成果として、核物質中のハイペロン一体ポテンシャルなどの重要な副産物が既に得られている。従って、中性子星の冷却にまで研究が至らなくても、本研究課題は十分な成果をあげられると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題にはハイペロン相互作用を決定する為の格子QCD数値計算が含まれている。この部分を少しでも早くに終わらせる為に、大型計算機の利用枠を購入する計画であった。ところが、京コンピューターには利用者が多く、常に膨大な計算が溜まっている状況である。利用枠を購入して追加しても、計算を早く終わらせる事に寄与しない事が判明したので、利用枠の購入は見送った。そのために今年度の利用額が予定を下回り、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は最終年度であるので、成果の公表(アウトリーチ)にも力を入れたい。次年度使用額があるのでそれを利用して、国際会議での成果発表を当初の予定より1つ多くする事を検討している。あるいは、金額的に可能であれば、小規模の国内研究会を主催する事も検討している。
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