ダブルメソン光生成反応による高励起バリオンの研究

2015 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 26400287
• 研究機関: 東北大学
• 研究代表者: 石川 貴嗣 東北大学, 電子光理学研究センター, 助教 (40400220)
• 研究期間 (年度): 2014-04-01 – 2017-03-31
• キーワード: ハドロン物理 / メソン光生成 / バリオン共鳴

研究実績の概要

平成 27 年度は、平成 26 年度に引き続き震災前に東北大学電子光理学研究センター ELPH の FOREST 電磁カロリメータを用いて取得したデータの解析を行った。取得したデータの解析を進め、検出器のエネルギー応答や時間応答、および検出効率をγp→ηp、γp→π0p、γp→π0π+反応を使って調べ、実験データとシミュレーションを比較した。実データとシミュレーションの不一致は、検出器の応答やジオメトリがシミュレーションで完全に再現されていないことを意味する。不一致を解消するためシミュレーションを改変することでアクセプタンスがほぼ理解できた。これにより論文執筆の段階にきたものと考えている。FOREST 実験に関連する検出器などの論文は順次執筆しており、平成 27 年度には光子ビームのプロファイルモニターに関する論文が Nuclear Instruments and Methods A 誌で出版され、さらに FOREST 検出器に対する論文を同誌に投稿したところである。
FOREST の復旧と新たなγd→pηn反応によるηn相互作用の研究計画を開始した。約 900 MeV のガンマ線を重陽子標的に入射し、陽子を 0 度で検出すると、ηメソンを中性子と相対運動量 0 にできる。このように理想的な状態でηn→ηn散乱の散乱長を決定するとともにηnと結合する高励起バリオン研究を行うため、FOREST の下流に前方陽子検出用の偏向電磁石を設置するための準備を行っているところである。
大型放射光施設 SPring-8 における LEPS2 実験については順調にデータ収集を継続しており、検出器の基礎的な較正は既に終了している。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

FOREST 実験のデータ解析では、水素標的を使ったγp→ηp、γp→π0p、γp→π0π+反応を検出器の組み合わせごとの生成量を調べることでシミュレーションの確からしさを確認した。平成 26 年度では FOREST を構成する三つの電磁カロリメータのギャップに対応するところで検出器の組み合わせごとに評価した微分断面積がかなりばらついていた。シミュレーションを改変することでアクセプタンスの矛盾をほぼ解消したので、物理データに対する論文執筆を開始する段階にようやく到達した。
物理データそのものの論文ではないが、平成 27 年度には光子ビームのプロファイルモニターに関する論文が Nuclear Instruments and Methods A 誌で出版され、さらに FOREST 検出器に対する論文を同誌に投稿したところである。その他 Nuclear Instruments and Methods A 誌に投稿予定の論文が 3 本控えている。

今後の研究の推進方策

現在までの進捗状況で述べたように、震災前に取得した FOREST 実験データの解析はほぼ最終段階になっており、物理データに対する論文執筆を開始できる状態である。γN→ηN 反応、γN→π0N 反応による高励起バリオンの研究に関する報告をまず最初に行い、引き続きダブルメソン光生成反応による高励起バリオンの研究の集大成としてγp→π0π+n、γn→π0π-p 反応に関する報告を行う予定である。FOREST 実験の解析の際に 0 度に放出された粒子を検出したイベントの重要性が明らかになってきた。その一つとしてγd→pηn反応によるηn相互作用の研究計画を提案し、ELPH 実験課題としてそのコミッショニングに 93 シフト採択されている。約 900 MeV のガンマ線を重陽子標的に入射し、陽子を 0 度で検出すると、ηメソンを中性子と相対運動量 0 にできる。このように理想的な状態でηn→ηn散乱の散乱長を決定するとともにηnと結合する高励起バリオン研究を行う。ηn相互作用の研究のみならず、γd→K+Λn反応によるΛn相互作用の研究といった QCD の非摂動領域の振る舞いを理解するため非常に重要な物理データが FOREST アップグレード実験で得られる。FOREST の下流に前方陽子検出用の偏向電磁石と検出器を配置し、0 度に放出された荷電粒子の粒子識別と高精度な飛行時間と運動量測定のための検出器開発を開始する。
LEPS2 実験のデータ解析も断続的に行い、水素標的でのダブルメソン光生成反応による高励起バリオンの研究も進める。

研究成果

• [雑誌論文] A fast profile monitor with scintillating fiber hodoscopes for high-intensity photon beams (2016)
  • 著者名/発表者名: T. Ishikawa, H. Fujimura, R. Hamano, R. Hashimoto, Y. Honda, T. Ishida, S. Kaida, H. Kanda, S. Kido, Y. Matsumura, M. Miyabe, K. Mizutani, I. Nagasawa, A. Nakamura, K. Nanbu, K. Nawa, S. Ogushi, H. Shimizu, H. Sugai, K. Suzuki, K. Takahashi, S. Takahashi, Y. Taniguchi, A.O. Tokiyasu, Y. Tsuchikawa, H. Yamazaki
  • 雑誌名: Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section A 巻: 811 ページ: 124-132
  • DOI: 10.1016/j.nima.2015.12.027
  • 査読あり / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] Current status of meson photoproduction experiments with FOREST (2015)
  • 著者名/発表者名: T. Ishikawa, Q. He, Y. Honda, M. Miyabe, N. Muramatsu, H. Shimizu, Y. Tsuchikawa, H. Yamazaki
  • 雑誌名: ELPH annual report, 2014 巻: 5 ページ: 1-14
  • 謝辞記載あり
• [雑誌論文] K0 Λ photoproduction studied with FOREST (2015)
  • 著者名/発表者名: Y. Tsuchikawa, R. Hashimoto, Q. He, T. Ishikawa, S. Masumoto, M. Miyabe, N. Muramatsu, H. Shimizu, Y. Tajima, H. Yamazaki, R. Yamazaki, for the FOREST collaboration
  • 雑誌名: ELPH annual report, 2014 巻: 5 ページ: 15-21
  • 謝辞記載あり
• [雑誌論文] A method to measure the size of hadrons (2015)
  • 著者名/発表者名: H. Shimizu, Q. He, Y. Honda, T. Ishikawa, S. Kido, M. Miyabe, Y. Matsumura, N. Muramatsu, A. Tokiyasu, Y. Tsuchikawa
  • 雑誌名: ELPH annual report, 2014 巻: 5 ページ: 22-26
• [雑誌論文] Development of a photon tagger with counters based on MPPCs (2015)
  • 著者名/発表者名: H. Kanda, T. Fujii, Y. Fujii, M. Fujita, H. Homma, K. Honda, T. Ishikawa, M. Kaneta, Y. Kasai, C. Kimura, J. Kusaka, K. Maeda, S. Nagao, S. N. Nakamura, A. Ninomiya, T. Nishizawa, K. Nochi, K. Ozeki, T. Sasaki, H. Shimizu, Y. Takahashi, K. Tsukada, R. Yagi, F. Yamamoto, H. Yamazaki
  • 雑誌名: ELPH annual report, 2014 巻: 5 ページ: 79-82
• [雑誌論文] Test experiment of a prototype RICH counter for the J-PARC E50 experiment (2015)
  • 著者名/発表者名: T. Yamaga, R. Honda, T. Ishikawa, K. Kato, M. Naruki, H. Noumi, K. Shirotori, T. Takahashi
  • 雑誌名: ELPH annual report, 2014 巻: 5 ページ: 83-88
• [雑誌論文] Study for the charged particle detector using wave length shifting fibers and MPPC (2015)
  • 著者名/発表者名: M. Miyabe, T. Abe, Y. Inoue, M. Sasagawa, Y. Honda, T. Ishikawa, S. Kido, T. Suda, Y. Tajima, A.O. Tokiyasu
  • 雑誌名: ELPH annual report, 2014 巻: 5 ページ: 89-94
• [雑誌論文] The performance study of an electro-magnetic calorimeter BGOegg (2015)
  • 著者名/発表者名: Y. Matsumura, T. Ishikawa, M. Miyabe, N. Muramatsu, H. Shimizu, H. Hamano, T. Hashimoto, S. Kido, S. Masumoto, K. Mizutani, K. Ozawa, T. Shibukawa, K. Shiraishi, A. Tokiyasu, N. Tomida, N. Tran, Y. Tsuchikawa, H. Yamazaki, R. Yamazaki, M. Yosoi
  • 雑誌名: ELPH annual report, 2014 巻: 5 ページ: 95-105
• [雑誌論文] Development of the liquid hydrogen target system for the electromagnetic calorimeter (2015)
  • 著者名/発表者名: N. Muramatsu, T. Ohta, M. Yosoi, Y. Ohashi, W.C. Chang, J.Y. Chen, S. Date, H. Goto, H. Hamano, T. Hashimoto, Q. H. He, K. Hicks, T. Hiraiwa, Y. Honda, T. Hotta, H. Ikuno, T. Ishikawa, I. Jaegle, Y. Kasamatsu, S. Kido, Y. Kon, S. Masumoto, Y. Matsumura, M. Miyabe, K. Mizutani, T. Nakano, et al.
  • 雑誌名: ELPH annual report, 2014 巻: 5 ページ: 106-112
  • 国際共著
• [雑誌論文] Development of a charge-to-time (QTC) discriminator (2015)
  • 著者名/発表者名: T. Ishikawa
  • 雑誌名: ELPH annual report, 2014 巻: 5 ページ: 113-124
  • 謝辞記載あり
• [学会発表] 光子ビームによる η、η' メソン原子核の探索 (2015)
  • 著者名/発表者名: 石川 貴嗣
  • 学会等名: 滞在型研究会＠JPARC 「原子核媒質中のハドロン研究 III」
  • 発表場所: ＫＥＫ東海キャンパス・東海１号館, Tokai, Japan
  • 年月日: 2015-10-20
  • 招待講演
• [学会発表] Upgrade plan of FOREST for meson photo-production experiments at ELPH (2015)
  • 著者名/発表者名: T. Ishikawa
  • 学会等名: ELPH workshop C013 "Meson Production and Meson-Baryon Interaction"
  • 発表場所: Mikamine hall, Research Center for Electron Phton Science, Tohoku University, Sendai, Japan
  • 年月日: 2015-09-14
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] Meson photoproduction experiments at ELPH, Tohoku University (2015)
  • 著者名/発表者名: T. Ishikawa
  • 学会等名: The 10th International Workshop on the Physics of Excited Nucleons (NSTAR2015)
  • 発表場所: Icho Kaikan (Pharmaceutical Information Center), Osaka University, Suita, Japan
  • 年月日: 2015-05-26
  • 国際学会 / 招待講演
• [備考] Fast profile monitor for photon beams
  • URL: http://www.lns.tohoku.ac.jp/~hadron/mbr/ishikawa/004e.html