本研究はT2K実験におけるニュートリノの酸素原子核との反応で発生する脱励起ガンマ線の測定により、これまで測定されていなかった中性カレント準弾性散乱反応を測定することである。この反応は超新星ニュートリノ観測にも重要であるが、初年度には世界で初めてこの反応を測定し、論文がPRD誌に掲載された。しかしその測定誤差は20%近くあり、その誤差の最大の要因は中性子の酸素原子核との二次反応により発生するガンマ線事象である。その誤差を削減するために、大阪大学核物理センター(RCNP)での中性子ビームラインを利用した全く新しいビーム実験を提案した。2015年1月と6月の2度の予備実験、また2016年3月にはJ-PARCにおける予備実験(T64)を行い、最終年度である2016年6月(E465)と2017年3月(E487)にRCNPで本実験を遂行した。共に中性子ビームラインに水標的を置き、周りを複数のガンマ線検出器で覆う実験である。最初のE465では中性子と酸素原子核によるガンマ線を捉えることに成功した。さらにE487では、より詳細なガンマ線実験データを取得することに成功し、ニュートリノ物理へのフィードバックだけではなく、原子核物理分野において新たな測定手法の確立、知見を得ることができた。また本研究と関連して、東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター(CYRIC)で、CsI検出器を用いた中性子ビーム実験を遂行し、CsI検出器が中性子とガンマ線の識別能力が高いことも実証した。これらの結果は国内外の様々な研究会で発表した。また、申請時には代表者と岡山大の学生のみで始めた研究であったが、その後、京都大、神戸大、TRIUMF研究所(カナダ)、トロント大学(カナダ)、パドバ大学(イタリア)からも研究者・学生が参加することになり、研究組織として大きく発展させることにも成功した。
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