研究課題/領域番号 |
26400295
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
神田 展行 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (50251484)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 重力波観測 / データ解析 / GPGPU / 高度並列化計算 / 宇宙物理 |
研究実績の概要 |
本研究計画の目的は、GPGPUの特性を最大限利用した高度な並列計算を応用し、重力波データ解析の高速化をおこなうことである。GPGPUとは、画像処理演算装置による汎目的計算であるが、特に、数百以上の多数のコアを有することによる並列化のメリットがある。このことを重力波検出器のデータ解析に適用し、比較的短い時系列でのデータ単位での処理が多い計算の高速化を実現する。 2015年度は、年度末に待望のKAGRA実験の初観測がなされ、KAGRAの観測データを得ることができた。 本計画研究では、このデータをGPGPUワークステーションで用いるためにNASストレージを準備し、これにデータを移植している。 我々自身の先行研究として開発していたラジオメトリ解析を応用し、KAGRAデータを時間をずらして仮想的に複数台の検出器として処理押し、ラジオメトリを適用してみることを検討・準備した。重力波の偏極情報を組み込んだラジオメトリについての検討も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画2年目である平成27年度は、前年度までに整備した2台のGPGPUワークステーションを使える計算環境に、KAGRAのデータを用いることができるように整備した。 本研究は、我々自身の先行研究「ラジオメトリ計算」で培った知見(GPU上でのFFT計算、乱数発生、マザーボード-GPU間のデータ転送の効率など)から出発した。ラジオメトリは、天球上に局在して常時放射されている重力波源について感度があるが、従来の研究では背景重力波的な非コヒーレントな波源を想定していた。この研究をパルサーなどのコヒーレントな重力波(位相の時間発展が安定な源)に拡張するには、いくつか工夫が必要である。コヒーレントな場合には、ドップラー補正やヘテロダイン検出を行い感度を高くする工夫がなされている。しかしその処理が全天探索を困難にしており、GPGPUを用いての高速化を検討している。 本年度は、連続重力波探索計算の高速化の実装をどう行うかについての研究をおこなった。そのなかで、ラジオメトリを重力波の偏極をとりいれたものにするアイデア、アンテナパターンによるモジュレーションを利用して1台の検出器の時間差をつけての自己相関により背景重力波・連続重力波の非一様性を探るアイデア、が浮上した。偏極ラジオメトリについては他者の先行研究で示唆されてはいるが、計算量のこともあって実際の計算などには至っていないこともわかり、本研究において計算できる可能性が出てきた。
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今後の研究の推進方策 |
KAGRAの初観測は、当初予定よりやや遅れて2016年3月~4月に、2回にわけて行われた。本研究ではそのデータを使える状態にはったので、実際の観測データを用いて、GPGPUの有効性や、早い計算によって可能となるサイエンスを検証する。 実際の観測データには事前のシミュレーションでは再現できない様々な雑音や検出器装置コンディションの変化が予想される。このような質が一様でないデータをGPGPUで処理する場合に、特に並列化やデータサイズの最適化にどのような調整が必要となるかは興味深い内容である。 偏極ラジオメトリと、時間差とアンテナパターンによるモジュレーションは、畳み込み(convolution)の逆解きが必須である。この計算は通常のCPUで行うと非常に時間がかかるが、計算工程自体は単調な計算の繰り返しであることがわかっている。この手法の成否は、畳み込みの逆解きをいかにGPGPU上で効率良く行えるかにかかっており、この点に着目して進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はKAGRAデータのために予定していたNASなどを購入しおおむね計画通りに執行したが、10万円程度の余りが生じた。研究上有用な機器を購入するにはこれだけではやや足りず、旅費での利用も適切な機会がなかったため、無理をせずに繰り越す。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の旅費(学会、研究会)での発表、またはKAGRA実験のデータ関連での調査のための出張に充てる。
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