本研究計画は、GPGPUの特性を最大限利用した高度な並列計算によって重力波データ解析の高速化をおこなうことである。GPGPUとは、画像処理演算装置による汎目的計算であり、数百以上の多数のコアを有することによる並列化のメリットがある。この性質を利用し、比較的短い時系列でのデータ単位での処理が多い計算の高速化を実現しする。 本研究期間の2、3年目にまたがる2016年の3月、4月に大型低温レーザー干渉計KAGRA実験が最初の運転データを出し、本研究でもこのデータを移植し、解析した。データの移植については本研究の2年目に調達したNASストレージが有効に役立った。最終年度である本年は、GPUカード TITAN X-12 をワークステーションに増設し、計算能力を増強して研究した。また、米国LIGO実験が公開したデータも、本研究でデータ処理を行ってみた。 計算では、我々自身の先行研究で開発したラジオメトリ解析を応用した。ラジオメトリ計算は2、3分間程度の短いデータについて、2台以上の検出器の相関計算を繰り返す。その際、天球上に重力波到来方向を仮定して位相差を与え直して計算し、方向ごとに積分する。したがって、短いデータでパラメータを少しづつ変えて同種の計算を繰り返すという、GPGPUには好都合の計算工程である。今年度は、1台しかないないKAGRAデータを、仮想敵に時間をずらして2台の検出器とみたて、ラジオメトリを適用した。その結果、積分時間を伸ばすに連れて、検出器の正弦波的な雑音が位相キャンセルされ、天球マップ上での雑音の構造が緩和されてゆく様子などが確認された。 また、LIGOの公開データは実際に2台の検出器によるものなので、イベント探索の可能性がある。宇宙線やX線・γ線などで明らかになっている天球上の非一様性と重力波ラジオメトリの相関に注目して解析を行い、論文を準備中である。
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