本研究は、湾曲シリコン結晶のチャネリング現象を用いることによる陽子ビームの効率良い偏向方法の開発において、ビームロスの少ない湾曲結晶の製作方法を確立することを目的とする。すなわち、 ・ビームにさらされない位置にあるホルダで弾性的に結晶を湾曲させる方法 ・結晶の湾曲状態を保ちながら自立させる方法 の少なくとも一方を完成させる。初年度である平成26年度には、ロシア・高エネルギー物理学研究所の研究者の協力により既に製作されていた湾曲結晶の精密測定を行い、設計通りの湾曲角度を持っていることが確認できた。平成27年度には結晶の湾曲状態を保ちながら自立させる方法による試作を国内メーカにて行った結果、結晶構造が壊れていることがわかった。平成28年度には、ロシア・高エネルギー物理学研究所の研究者の協力により、ホルダをビームにさらされない位置におきながら弾性的にシリコン結晶を湾曲させた湾曲結晶を試作し、その形状の精密測定を行い、設計通りの湾曲角度を持っていることが確認できた。結晶の有効サイズは40mm x 26mm(ビームに沿った方法の長さ)x 0.3mm(厚さ)であり、湾曲角度は22mradであった。平成29年度には、前年度にロシアで製作した結晶の国産化を図るべく、国内のメーカにてホルダがビームから遠い場所にあるタイプの湾曲結晶の試作を行った。その結果、ロシア製と同じ0.3mm厚の結晶では目標である17mradの湾曲は困難で、その半分程度の湾曲角度にとどまることが分かった。また、結晶を1mm程度に厚くすることで17mradの湾曲角度が可能であるとの示唆を得られた。加えて、最終年度にはロシア・高エネルギー物理学研究所にて実際の湾曲結晶を用いたビーム分岐の試行に立ち会い、実際の運用上の知見を得ることができた。
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