研究課題/領域番号 |
26400304
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研究機関 | 公益財団法人佐賀県地域産業支援センター九州シンクロトロン光研究センター |
研究代表者 |
高林 雄一 公益財団法人佐賀県地域産業支援センター九州シンクロトロン光研究センター, 加速器グループ, 副主任研究員 (50450953)
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研究分担者 |
隅谷 和嗣 公益財団法人佐賀県地域産業支援センター九州シンクロトロン光研究センター, ビームライングループ, 副主任研究員 (10416381)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | パラメトリックX線 / 相対論的電子ビーム / 結晶 / ビームモニタ |
研究実績の概要 |
ビームのプロファイル測定は,ビームの性質や加速器の光学的関数を把握する上で重要であり,様々な手法が開発されてきた.従来リニアックからの電子ビームの高精度プロファイル測定には,可視遷移放射(OTR)が用いられてきた.しかし,最近,X線自由電子レーザー(XFEL)用リニアックでは,バンチ長が短いために,OTRがコヒーレントになり,ビームのプロファイル測定に利用できないことが判明した.リニアコライダー用リニアックのように,ビームサイズが極端に小さい場合にも,OTRはコヒーレントになり,ビームのプロファイル測定に利用できないと考えられる. そこで,本研究では,パラメトリックX線(PXR)の利用を提案している.PXRとは,相対論的荷電粒子が結晶に入射した際に,ブラッグ条件を満たす方向にX線が放射される現象である.入射荷電粒子のまとっている擬似的光子が,結晶によって回折される現象と解釈することができる.今までに,PXRを利用したビームプロファイルの測定法として,(i)近接法,(ii)ピンホールカメラ法,(iii)フレネルゾーンプレート法という3つの手法を提案し,近接法とピンホールカメラ法に関しては,すでに原理の検証実験に成功した.本研究の目的は,残るフレネルゾーンプレート法の原理の検証実験を行うことである. まず,本研究では,実験装置の設計・構築を行った.次に,PXRを利用した実験を行う前に,準備実験として,九州シンクロトロン光研究センター(SAGA-LS)のビームラインにおいて,放射光X線を利用することにより,実験装置のアライメント法の習得と性能評価を行った.今後,実験装置をSAGA-LSのリニアック室に設置し,実際にPXRを利用して測定を行う予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.【実験装置の設計・構築】本研究では,フレネルゾーンプレートを用いて,結晶からのPXRを結像し,電子ビームのプロファイルの測定を行うことを考えている.フレネルゾーンプレート,ピンホール,ビームストップ等の位置を精密に調整するための実験装置を設計・構築した. 2.【放射光X線を用いた実験】実際にPXRを利用した測定を行う前に,準備実験として,SAGA-LSのビームラインBL09において,放射光X線を用いて,実験装置のアライメント法の習得を行った.ただし,ビームタイムの関係で,フレネルゾーンプレートによる放射光X線の集束を確認するまでには至らなかった. 3.【PXRを用いた実験】準備実験として,PXRの角度分布の測定を行った.PXRは,SAGA-LSリニアックからの255 MeV電子ビームをSi結晶に入射させて発生させ,32.2°方向に設置されたベリリウム窓を通して大気中へと取り出した.X線検出器として,イメージングプレートを採用した.PXRの他に,回折遷移放射と回折制動放射も検出された.得られた角度分布は,回折遷移放射と回折制動放射の寄与を考慮した計算結果とよく一致した.現在,論文の投稿準備中である. 4.【リニアコライダー用ビームモニタの検討】リニアコライダーでは,ビームサイズがnmオーダーと極端に小さいために,特別な測定法が必要となる.当初,PXRを利用した方法を検討していたが,難しいことがわかった.しかし,詳細な検討の結果,PXRのかわりに回折遷移放射を利用できることが判明した.回折遷移放射はPXRよりも角度拡がりが小さいので,ビームモニタとして有効であることを明らかにした.検討結果は論文として公表した.
1に関しては,順調に進展している.2と3に関しては,やや遅れている.4に関しては,当初の計画以上に進展している.総合的に判断して,順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
1.【放射光X線を用いた実験】 引き続き,SAGA-LSの放射光ビームラインにおいて,実験装置の性能評価のために,フレネルゾーンプレートによるX線の集束実験を行う. 2.【PXRを用いた実験】 今後,実験装置をSAGA-LSのリニアック室に設置し,実際にPXRを用いて,電子ビームのプロファイル測定を行う予定である.PXRは,リニアックからの255 MeV電子ビームをSi結晶に入射させて発生させる.発生させたPXRは,32.2°方向に設置されたベリリウム窓を通して大気中へと取り出す.回折面として(111)面を用いる場合,ブラッグ条件より,PXRのエネルギーは7.1 keVと計算される.X線検出器として,実績のあるイメージングプレートを用いる. 3.【リニアコライダー用ビームモニタの検討】 リニアコライダーでは,ビーム強度が強いために,ビームを結晶に入射させると,結晶は破壊されることが予想される.ビームを結晶に入射させず,結晶表面付近を通過させるだけでも,入射荷電粒子のまとう電磁場の一部が結晶に侵入することにより,回折遷移放射は生成されると考えられる.この現象を表面回折遷移放射と呼ぶことにする.この放射現象を利用すれば,結晶の破壊を回避できる可能性がある.引き続き,表面回折遷移放射を利用したビームモニタの検討を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では,フレネルゾーンプレートを2枚使用する予定であり,すでに,1枚は所有している.まず,フレネルゾーンプレート1枚のみを用いてPXRの集束実験を行い,その結果を踏まえて,もう1枚の仕様を決定し購入する予定であった.しかし,ビームタイムの関係で,フレネルゾーンプレートによるPXRの集束には,まだ至っていないため,購入が遅れた.
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次年度使用額の使用計画 |
上述したように,主にフレネルゾーンプレートを購入するために使用する予定である.また,フレネルゾーンプレート等の精密位置調整機構の製作にも使用する予定である.
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