研究課題/領域番号 |
26400306
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
武貞 正樹 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30311434)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 強誘電性ナノ結晶 / 第二高調波発生 / 広帯域光散乱分光 / ハイパーレーリー散乱 / トロイダル強誘電性 / トロイダルソフトモード / 強誘電体 / SHG |
研究実績の概要 |
物質はナノメートル領域まで極小化すると巨視的な系には発現しない新奇な物理現象が現れる。強誘電体では強誘電性が消失する臨界サイズや著しい誘電率の低下が報告されている。長距離的な協力的相互作用で発現する強誘電性相転移のメカニズムはサイズ効果でどのように変貌するか興味が持たれる。本研究では平成26年度に作製された粒径サイズ7,17,30 nmのチタン酸バリウムのナノ結晶試料と広帯域高分解能レーザー分光システム&ハイパーレーリー散乱分光システムを用いて各試料の広帯域スペクトルとSHG強度の温度依存性を測定した。SHG測定には、ハイパーレーリー成分の積分強度をSHG強度とすることで装置の温度変化に影響されない測定を可能とした。その結果、これまで測定が困難であった相転移点直上の微弱なSHGに関してもシグナル/ノイズ比に優れた温度依存性を得ることに成功した。実験結果は相転移点が粒径サイズの減少に伴って最小試料サイズの粒径7 nmまで直線的な上昇を示した。従来の報告では粒径が100 nmより小さくなると強誘電性の相転移温度が著しく低下し30 nmで強誘電性が消失する臨界サイズが報告されFeRAM等のデバイスの小型化技術において大きな問題となってきた。しかし本研究成果は粒径サイズ7 nmまで相転移温度が上昇を続けており、これまでの定着した概念を覆す結果を得た。さらに今後、7 nmより小さな粒径サイズ試料でどこまで相転移点が上昇するのか、また30 nmより大きな粒径サイズ試料を用いることで強誘電的な秩序形成がメゾスコッピクな系と、巨視的な系の相転移現象の間で物理的にどのようにクロスオーバーしていくか興味が持たれる。本研究成果は日本物理学会2015年秋季大会のシンポジウムで招待講演として、題目「広帯域光散乱分光法で探るナノ結晶のトロイダル強誘電性と秩序形成ダイナミクス」で発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
測定を予定していた広帯域光散乱スペクトルの温度依存性やSHG強度の温度依存性の測定は順調に進展し、これまで予想されていなかった非常に興味ある結果を得た。しかし本研究課題で主に用いている広帯域高分解能レーザー分光システムのレーザー光源が平成27年度の初め本研究課題の実験測定中に故障したため広帯域スペクトルの測定が困難となった。そこで平成27年度の途中から別の研究プロジェクトの実験システムで使用されているレーザー装置を借用して実験を継続した。しかし二つの研究プロジェクトで一つのレーザー装置を共用するため毎回の測定準備に費やす時間が大幅に増大し研究に掛かる負担が非常に大きくなるなどトラブルが発生した。今後、観測したい広帯域光散乱スペクトルの測定点がこれまで以上に増えることを考慮すると、これ以上の負担は研究の進展を妨げると判断して新しいDPSSレーザーを導入することとした。レーザーの購入費用の一部を本補助金で支出した。
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今後の研究の推進方策 |
1)平成27年度に行ったチタン酸バリウムナノ結晶試料の第二高調波発生(SHG)強度の粒径サイズ依存性と温度依存性の測定結果から粒径サイズの減少に伴って相転移点が上昇する非常に興味ある結果を得た。本結果は従来の報告から予想される結果と全く逆の結果であり、事実であれば基礎・応用の視点で極めて重要な結果であり、たいへんにインパクトのある結果である。本年度は最終年度としてこの結果の再現性を詳細に確認すると伴に、得られた結果の理論的な解明を進める。 2)7 nmより小さな粒径サイズ試料でどこまで相転移点が上昇するのか、また30 nmより大きな粒径サイズ試料を用いることで強誘電性相転移機構がメゾスコッピクな系とマクロスコピックな系の間で物理的にどのようにクロスオーバーしていくか広帯域光散乱スペクトルと第二高調波発生から明らかにする。 3)チタン酸バリウムナノ結晶において紫外光照射下の広帯域光散乱スペクトルの温度依存性、粒径依存性、励起光強度依存性を測定し、スペクトル解析から紫外光照射による電子フォノン相互作用や光誘起相転移現象の発現について調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
上記の次年度使用額について平成27年度(平成28年3月)までに発注と納品は完了したが代金の支払が平成28年度(平成28年4月)となった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度より本研究課題で主に用いてきた広帯域高分解能レーザー分光システムのレーザー光源が平成27年度の初め実験中に故障し広帯域スペクトルの測定が困難となった。そこで平成27年度途中まで別の研究プロジェクトのレーザー装置を借用して本研究課題の実験を継続した。しかし二つの実験装置でレーザー装置を共用するため測定を行う時間が大きく制限されるなどのトラブルが生じたため新しいDPSSレーザーを導入することとした。本研究に最も適したレーザー装置について平成27年9-10月で調査検討を行い、仏国Oxxius社製のDPSSレーザー(型式LMX-532S-300-COL-PP)が最適であると判断した。平成27年11-12月で大学の発注作業が行われ平成28年3月に装置が納入された。レーザー装置の購入費用の一部が本補助金から支出された。
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