研究実績の概要 |
機能性物質として興味が持たれるナノ結晶やナノ構造体の合成について精密制御技術が革新的に進歩している。ナノ結晶や構造体の規則正しく原子配列した原子精度のイメージ像は、固体物理学における巨視的な物理学描像と原子スケールの微視的な物理学描像の交差領域で、新しい物理現象の発現を期待させる。本研究課題ではこの公差領域で期待される巨視的な強誘電性相転移現象から変貌し出現する強誘電的ナノ秩序形成の物理的発現機構を解明する目的で研究が行われた。試料には超臨界水熱合成法で得られた強誘電体の典型物質であるチタン酸バリウムの良質な強誘電性ナノ結晶を用いた。試料の高分解能広帯域光散乱スペクトルと第二次高調波発生(SHG)を測定し以下の研究成果を得ることに成功した。DPSSレーザを導入して高分解能広帯域光散乱分光&ハイパーレーリー散乱実験システムを安定化し、分解能0.1 GHzの高分解性能と高感度高安定性を実現して強誘電性ナノ結晶試料の広帯域スペクトルとSHG強度の温度依存性、粒径依存性、励起光強度依存性について測定が行われた。最終年度として、粒径8, 17, 30 nmの試料について0.3 GHzから10THzの広帯域で広帯域スペクトルを測定し、バルク結晶には見られない冪乗則に従う自己相似スペクトルの観測に成功した。粒径30 nmの試料で得られた広帯域スペクトルの温度依存性に関するスペクトル解析の結果は、強誘電性ナノ秩序形成過程がフラクタル性を伴って出現することを示唆し、対称中心の消失を示すSHGが現れる温度Toにおいてフラクタル次元の温度依存性に明確な異常が観測された。この結果は強誘電的なナノ秩序形成がナノ結晶の表面から発生し、極性領域が2次元的パーコレーション転移をきっかけに発現することを示唆する。本研究成果は強誘電性ナノ結晶におけるナノ秩序形成過程に新しい物理的発現機構を提示するものである。
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