研究課題/領域番号 |
26400309
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
舛本 泰章 筑波大学, 名誉教授 (60111580)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 量子ドット / 時間分解ファラディ回転 / スピン / トリオン |
研究実績の概要 |
化学的に生成された量子ドットへの電子や正孔のドーピングは、重要な課題である。従来はタイプII型のシェルを形成することによってのみ電子や正孔のドーピングが行われていたが、本研究では量子ドットの表面に電荷アクセプター(受容体)を化学的に結合させたり、配置したりすることで光励起後に過渡的に量子ドットへ電子や正孔のドーピングを行い、これを時間分解ファラディ回転信号の強度により電子と正孔の異なるスピン回転周波数を利用して電子か正孔かを同定してドーピングの程度を調べることに成功した。量子ドット中に電子が存在すると、室温・横磁場中でフェムト秒時間分解ファラディ回転信号中に、電子スピンの回転を反映した振動構造が観測される。ファラディ回転信号中の非振動成分は、正孔スピンの強い方向異方性を反映して励起子のスピン分極と同定され、CdS量子ドットに比べてCdS量子ドット・電荷アクセプター(受容体)複合系ではわずかに減衰が速くなりCdS量子ドット・正孔アクセプター(受容体)複合系では大きく減衰が速くなる。CdS量子ドットが分子リンカーを介してTiO2電子アクセプター(受容体)に結合しているときには電子スピンの回転信号は増強されスピン緩和時間は室温でもT2*=450psまで長くなる。このとき、CdS量子ドット中に光励起された電子・正孔対から電子のみがTiO2に移り、励起レーザーパルス列の次のレーザー光パルスが量子ドットを励起したときまでかなりの数のCdS量子ドット中に正孔が残留し、この中に電子1つと互いに反平行なスピンをもった2つの正孔が結合した正のトリオンが形成される。正のトリオンのスピンと同じとなる電子スピンの回転は前の光励起の後に残留した正孔から正のトリオンへの光励起遷移により開始される。量子ドットを光励起後に過渡的に正孔をドープすることで電子スピンの回転信号を増強することが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
化学的に生成された量子ドットの電子や正孔のドーピングは、重要な課題である。化学的に形成したCdS量子ドットに電子アクセプター(受容体)を結合して、光励起に続いて過渡的に正孔をドーピングすると時間分解ファラディ回転の信号が大きく増強されることを初めて見出した。量子ドット・電荷アクセプター(受容体)複合系において、電子スピン回転の信号を時間分解ファラディ回転法により見い出し、電荷アクセプター(受容体)の種類やあるなしで明確な差異を見い出したのは大きな成果である。時間分解ファラディ回転により電子または正孔の過渡的ドーピングが明らかにできること、量子ドット・電荷アクセプター(受容体)複合系において電子または正孔の過渡的ドーピングが実現できることを証明したことは意義深い。
|
今後の研究の推進方策 |
化学的に生成された量子ドットの電子・正孔のドーピングは、重要な課題である。化学的に形成したCdS量子ドットに正孔を過渡的にドーピングすると時間分解ファラディ回転の信号が大きく増強されることを見出した。量子ドットと電荷アクセプター(受容体)をつなぐ分子リンカーの分子長を変えて電子移動の速度を変化させるなど、多様な量子ドット・電荷アクセプター(受容体)複合体に対象を拡大し、より感度に優れた時間分解ファラディ回転を用いて電子・正孔の過渡的ドーピングの効率を研究する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
化学形成量子ドットの研究には化学合成に多様な試薬の調達や新しい方策を模索する可能性がある。こうした可能性を残すため、不要不急な使用は控えた結果、累積交付額の13.5%の残額が出た。
|
次年度使用額の使用計画 |
より感度に優れた時間分解スピン回転をプローブとした高速電子移動の研究の対象として、多様な化学的に形成された量子ドット・電荷アクセプター(受容体)複合体を研究する。このため、化学合成に必要な多様な試薬の調達や新しい方策、計測方法の改善を模索するために使用する。
|