研究課題/領域番号 |
26400310
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
中山 隆史 千葉大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70189075)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 有機半導体 / 第一原理計算 / 不純物欠陥 / PTCDA / ペンタセン / 金属クラスター / 不純物散乱 / 励起子散乱 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、第一原理計算を用いて、有機半導体中の不純物欠陥の形態・形成機構や欠陥準位の特徴・電子物性を解明し、有機半導体の不純物物理を構築することである。本年度は、環状分子半導体(PTCDA等)及び乱れたドナー/アクセプター半導体界面を対象に、以下の成果を得た。 1.金属原子の表面界面からの侵入・クラスター化特性の解明:(1)分子固体表面への金属電極蒸着の初期には、殆どの金属原子は固体中に侵入するが、電気陰性度の小さいAl、Ti等の金属原子は、PTCDA端のO原子と強くイオン結合し分子端に分散して複数個ずつ吸着する。一方、陰性度の大きいAu、Ag等は、分子との結合は弱く、O原子周辺で金属原子通しが結合して分子間金属クラスターを形成する。(2)金属原子の蒸着が進むと、Al等は表面に金属膜を形成すると共に固体中への侵入を継続するが、Au等は表面で安定な金属膜を形成して固体内部への侵入を止める。これら理論計算結果は多くの実験結果を始めて説明するものである。さらに電子構造を解析し、上記した金属原子の陰性度による侵入・クラスター化特性の相違は、金属-分子と金属原子間結合の競合によって起こることを明らかにした。 2.金属不純物に起因する伝導特性の解明:ペンタセン中のAu、Ag原子の格子間欠陥による電子キャリア易動度を、第一原理計算により求めた。その結果、Auの散乱ポテンシャルはAlより局在するため、散乱強度が大きくなり易動度を減少させる等を明らかにした。 3.乱れたドナー/アクセプター界面での励起子散乱の解明:乱れた有機半導体界面における励起子キャリアの散乱・解離過程を、第一原理計算に基づくモデルを用いて調べた。その結果、キャリア半径より大きな乱れは散乱強度を大きくして解離を増大させること、同時に多重散乱を通して界面に束縛された励起子を形成すること等を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していた有機分子固体(PTCDA、ペンタセン等)への不純物金属原子の侵入・クラスター形成特性、中性不純物金属原子によるキャリア易動度の研究はほぼ終了した。また、分子スケールで乱れたドナー/アクセプター分子界面における電子・正孔・励起子の散乱過程をモデル計算を開発して検討した。これらの知見をもとに、欠陥のキャリア捕獲とイオン化、荷電欠陥によるキャリアの散乱等の次年度の研究計画を問題なく推進できるため。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、これまでの研究で得た知見をもとに以下の研究をおこない、研究を総括する。 1.不純物欠陥の荷電化・キャリア散乱特性の解明:(1)有機半導体中で電荷を帯びた金属不純物欠陥の第一原理計算を行い、荷電欠陥の構造安定性、欠陥のキャリア捕獲とイオン化特性、電場下での欠陥の安定性を解明する。(2)中性・荷電・界面欠陥による散乱強度と易動度の検討、散乱におけるポーラロン効果の解明を行い、欠陥がもたらすキャリア輸送過程を明らかにする。 2.有機半導体中の不純物欠陥研究の総括:(1)金属原子がつくる有機分子間の隙間空間に発生するクラスターの形状・安定性の化学的傾向を明らかにし、欠陥生成過程のモデル(物理描像)を構築する。また、(2)不純物欠陥が引き起こすキャリア輸送特性の物理描像を明らかにし、その化学的傾向(定性的指標)を提案する。 これらの結果をまとめて、論文および有機半導体系の国際会議・学会で発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、ほぼ計画通り予算を使用した。次年度へ繰り越した額(750円)は、一部のデータ整理が遅れ、そのための文房具(物品費)を購入しなかったためである。次年度使用額は、次年度、データ整理のための文房具購入に使用する。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究費は、次年度予定の数値計算の実行および計算結果の解析を依頼するための謝金(約20万円を予定)、データを整理するための物品費(約10万円)、および研究成果を発表するための国内外旅費(約30万円)に使用する。
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